前半はじっくり、後半はショッキングに〜『1984』

 小川絵梨子演出『1984』を見てきた。言わずと知れたジョージ・オーウェルの小説をロバート・アイクとダンカン・マクミランが翻案した戯曲で、既にイギリスで英語版を見ている。

 英語版に比べるとスクリーンや暗転の派手な使用はやや抑え気味で(やってはいるが、イギリス版よりはるかにスムーズで控えめ)、とくに前半はあまり奇抜なことをやらないようストレートなお芝居として見せようとしていると思った。イギリス版を演出したロバート・アイクはメディアを派手に使うのが好きなのだが、それとはだいぶ違う触感になっていると思う。前半はかなりじっくり見せていた分、後半の101号室の拷問場面は真っ白な部屋でどんどんウィンストン(井上芳雄)が拷問で苦しんで精神をやられる様子を少々ショッキングに見せている。そんなに上演時間は長くないのにこの拷問場面はかなり長く感じた…のだが、これはおそらく演出上の狙いで、短い時間なのに永遠に感じるようなつらさを出したかったのだろうと思った。

 ジュリア役はともさかりえだったのだが、これはイギリス版とはかなり違う印象を受けた。イギリスで見た時のハーラ・ヤナス(「ヘイラ」かも)は可愛くて誠実で温かく、地に足が着いた女性という感じだったのだが、ともさかりえのジュリアはちょっと途中から急に情熱的になったように見えて、少しジュリアとウィンストンの関係の深まり方の描写に不足があるように思った。『1984』の原作にはミソジニー的な要素があり、イギリス版はそこをうまく演出でカバーしてたように思えたのだが、日本語版はそのへんのジュリアの描き込みがちょっと足りないようにも思う。