ジェームズ・ボールドウィン、言葉の力〜『私はあなたのニグロではない』

 ラウル・ペック監督のドキュメンタリー『私はあなたのニグロではない』を見てきた。アフリカ系アメリカ人作家ジェームズ・ボールドウィンがいずれも暗殺された公民権運動家メドガー・エバース、マルコムXマーティン・ルーサー・キング・ジュニアを題材にして書こうとしていた未完作Remember This Houseに基づき、サミュエル・L・ジャクソンのナレーションで進む作品である。

 アメリカ合衆国における人種差別に鋭く切り込んだ作品なのだが、この作品がうまくいっているのはボールドウィンが書く言葉に力があるからだと思った。ボールドウィン公民権のために積極的に活動した作家であり、アメリカ合衆国を分析する目は非常に鋭い。白人なら絶対に気付かないような偏見、そして差別を受けている人すら無意識に受け入れてしまっているのかもしれないような偏見に目を向けて、アメリカ合衆国には差別が遍在し、その構造じたいを差別が支えているきらいがあることを気付かせる。スピーチのうまさという点ではマルコムXキング牧師にはかなわないのかもしれないが、知性を持って社会を見つめ、分析し、その腐敗を暴くという点ではボールドウィンの書くことにはものすごい力がある。ボールドウィンの作家としての政治参加を強く印象づける作品だったと思う。