最初は笑えたが、後半がごちゃごちゃ〜『のみとり侍』(ネタバレあり)

 鶴橋康夫監督『のみとり侍』を見てきた。

 田沼意次時代の江戸が舞台で、主人公は長岡藩藩士として真面目に仕事をしている一方、亡き妻がなかなか忘れられず再婚をしていない寡夫の小林寛之進(阿部寛)である。ちょっとしたことでバカ殿にクビを言い渡され、「猫ののみとり」をして生計を立てることになる。猫ののみとりというのは表向きは文字通り猫のノミを駆除する仕事だが、実際は女性向けの売春業だった。真面目人間の寛之進は仰天するが、初めての顧客で亡き妻にそっくりなおみね(寺島しのぶ)に恋心を抱き…

 セックスが下手な男性が女性の喜ばせ方を習い、だんだん売春が自分に向いた仕事だと思うように…という展開は『娼年』にちょっと似ているのだが、こちらは真面目だけどなんかちょっとやることにおかしみがあるような役が得意な阿部寛が主人公なので、だいぶコミカルである。中盤くらいまではまるで艶笑人情落語みたいな展開だ。脇筋として清兵衛(豊川悦治)とおちえ(前田敦子)の痴話ゲンカの話があるのだが、うどん粉のくだりとかはバカバカしい下ネタだがけっこう笑える。

 しかしながら後半はずいぶん脚本がとっちらかっており、突然政治的陰謀の話などが出てきて、非常に整理されてない印象だ。全体的に艶笑コメディでまとめて、このへんの陰謀はナシにしたほうが良かったのではと思うのだが…ちょっととっちらかりすぎている。

 キャストはけっこうアクが強い。阿部寛と豊川悦治と、寺子屋の先生である友之進(斎藤工)が同じ長屋に住んでいるという設定は、いくらなんでもそんな色男ばっかりの長屋なんてあるかいなと思った。一方で女性陣は寺島しのぶ前田敦子、のみとり屋のおかみを演じる大竹しのぶなどを揃えており、よくまあこういう顔は標準的な美人とは言えないが一度見たら全く忘れられないような存在感がある女優ばっかり集めたもんだと思った。とくに前田敦子演じるおちえは、一まわり以上年上で浮気性だがたいへんな伊達男である清兵衛に異常に執着している若妻という役どころで、ちょっと暗くて必死になるほどおかしみが出てしまう個性にピッタリなので、この前田敦子使い方はすっごく正しいと思った。ただし、女性同士で話す場面がなく、ベクデル・テストはパスしない。

 『娼年』といいこれといい、男性による売春を扱った日本映画が2本も立て続けに公開されているわけだが、どちらも女性を喜ばせることが男性の自己実現につながるみたいな描き方になっており、それって少し理想化されすぎていないかな…とは思う。あと、どちらも女性による売春を扱ったものよりも圧倒的に笑うところが多いというか、気楽な雰囲気がある気がする。このへんについてはもう少し考えたいが、なかなか難しい気もする。