鋭く人種差別に切り込んでいるが、ジェンダーはイマイチ〜『アイヌ オセロ』

 シェイクスピア・カンパニーの『アイヌ オセロ』を学生を引率して見に行ってきた。1月に仙台で公演があり、そこまで行って見てこようと思うくらい行きたかった上演なのだが週末出勤のせいで果たせず、今回やっと東京公演で見に行けた。

 日本の芝居とは思えないくらいちゃんと人種問題に切り込んだ翻案である。1860年蝦夷地を舞台に、オセロ(旺征露)をアイヌの軍人、デズデモーナにあたる貞珠真(でずま)を仙台藩御備頭の娘、イアーゴーにあたる井射矢吾(いいやご)をアイヌと和人の間に生まれた兵士にしている。カンパニーの演出家である下館和巳の他、アイヌの芸術家である秋辺デボが演出に加わっており、考証などは大変本格的だ。アイヌ儀礼や舞踏などを話にきちんと関わる形で取り入れており、場違いな雰囲気や嫌な感じは全然ない。

 井射矢吾をアイヌ系にするのは秋辺のアイディアだったそうなのだが、そのせいで話が複雑さと深みを増している。イアーゴーはスペイン系の名前なので、原作でもヴェネツィアの習慣に通じたヴェネツィア人らしく振る舞ってはいても実はどこかよそ者なのではと思われるフシがある。この翻案ではできるだけ同化を目指しているものの中途半端によそ者扱いされている井射矢吾が、完全なよそ者ながら堂々とよそ者のまま成功しているオセロにひどく嫉妬する様子が強調されている。このプロダクションの井射矢吾(水戸貴文)は、舞台上に他の人物がいる時は非常に人当たりが良く、悪巧みをしているとは思えないようないい人そうなキャラクターとして演じられており、和人の社会に適応して出世しようとしてきたらしいことがわかるのだが、一方で華士郎(キャシオに相当)にアイヌにしてはいい奴だなどと言われた瞬間ちょっと微妙な表情になるあたり、芸が細かくて良かった。

 東北弁の台詞も滑舌のおかげか思ったよりは聞き取りやすく、わかりやすかったし、笑わせるところはきちんと押さえていたし、人種差別を正面から扱っているところは大変良く、面白いプロダクションだったと思う。ただ、ひとつ気になったのはジェンダーの扱いである。貞珠真と恵美利亜(エミリア)が話す場面の台詞がほとんどカットされており、エミリアが女性を弁護する有名な台詞がなくなっている。そのせいで貞珠真と恵美利亜がかなり大人しく男性に従う女性に見えるようになっており、キャラクターの奥行きが非常に浅くなっていると思った。私はシェイクスピア・カンパニーの東北弁シェイクスピアの台本は全部買って読んでいるし、『ハムレット、東北に立つ:東北弁シェイクスピア劇団の冒険』も読んだのだが、『ロミオとジュリエット』をはじめとして女性キャラクターの表現についてはずいぶん浅いと思うところがけっこうあって、この『アイヌ オセロ』も女性陣の描き方はちょっと平べったいと思った。