少年非行を防ごう!『デッドプール2』(ネタバレあり)

 『デッドプール2』を見てきた。

 いきなりデッドプール(ライアン・レイノルズ)の最愛の人であるヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)が殺害されるところから始まり、自暴自棄になったデッドプールを見かねたコロッサスがX-MENの施設にデッドプールを連れてくる…のだが、そこで任務により出動したデッドプールはミュータントの子供の保護施設で虐待をしていた職員を襲撃してしまい、さらにはいろいろあって助けたミュータントの少年ラッセル(ジュリアン・デニソン)と一緒に刑務所に入ることになってしまう。さらになぜかラッセルが未来から来た戦士ケーブル(ジョシュ・ブローリン)に狙われるようになり…

 いろいろこんがらがった話だが、基本的には発火能力を持つ不幸な少年ラッセルが殺人を犯して非行に走るのをみんなが必死で防ごうとする物語で、どっちかというとご近所の平和を守るヒーロー映画こと『スパイダーマン』あたりでやっててもおかしくないような内容である。恋人を失ってショックを受けていた男が、たまたま関わった子供が非行に走らないよう奔走することで人生を取り戻すって、暴力シーンがなければまるで正統派の人間ドラマみたいな展開だ。悪役に見えたケーブルも実は全然悪党というわけではなかったし、悪役と言えるのは一切スーパーパワーなど持っていない保護施設の虐待理事長(なんとエディ・マーサン)くらいなもんで、この悪役設定もまるで人間ドラマだ。前作の話からして、デッドプールは子供の頃から大変つらい人生を歩んできたと思われるのでこういう展開も理解できるのだが、まあたぶんこういうポストモダンなお笑いをふんだんにちりばめたヒーロー映画では、パワフルなヴィランを出しにくいのだろうなと思う。

 この作品では、恋人がいなくなってしまったぶん、デッドプールの良いお兄さん、良い保護者感が強くなっている。ラッセルに対する態度もそうなのだが、全体的にデッドプールの若いミュータントたちに対する態度が優しい。今作では前作でも活躍した不機嫌な十代のミュータント、ネガソニック(ブリアナ・ヒルデブランド)が正反対で人当たりの良い性格の少女ユキオ(忽那汐里)とつきあい始めるのだが、この2人を見て「可愛いカップルだね!」とか感心しているデッドプールは、まるで甥姪に甘い親戚のにいちゃんみたいだ。前作ではネガソニックの不機嫌に手を焼いていたのに、デッドプールもずいぶん丸くなったものである。まあ、ネガソニックも前作よりかなり丸くなっていたので、人当たりの良いユキオと付き合って精神的に成熟したのかもしれないが…ユキオがちょっとステレオタイプな東アジア系だということは言われているが、ただ出番が少なかったのでもうちょっと活躍してもらわないとあまり詳しいことはわからない気がする。

 今回のプロットではヴァネッサがいきなり最初に死んでしまうところがちょっと問題で、これは海外でフリッジングだと批判されている。フリッジング、あるいは「冷蔵庫の中の女」というのは、女性キャラクターを殺害あるいは虐待することで話が展開するというプロットデバイスで、しばしば男性の成長のため女性を犠牲にする安易な展開として批判されている。『デッドプール2』は、フリッジングにしてはかなり風変わりなのだが、たしかにヴァネッサをいきなり殺すのはちょっとやりすぎと思わなくもない。女性キャラでは相変わらず家主のアルのアクが強いのと、新キャラであるアフロのドミノ(ザジー・ビーツ)がまる70年代のブラックスプロイテーションのヒロインみたいで良かった。白斑がある女性を美しくてカッコいい存在として描いているのもいい。ただ、女性同士が男性以外のことについて話す場面はないので、ベクデル・テストはパスしないと思う。