田舎町のにいちゃんだった時代のハン・ソロ〜『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(ネタバレあり)

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』を見てきた。ハン・ソロの若き日を描くものである。

 コレリアでチンピラ稼業に精を出していたハン(オールデン・エアエンライク)は恋人キーラ(エミリア・クラーク)と離ればなれになってしまい、パイロットの訓練を受けたり、戦場に出たりした後、ベケット(ウディ・ハレルソン)の一味に加わる。大きなヤマに関わる案件で偶然、キーラと再会するが…

 この作品については予告を見て大変心配していたのだが、思ったよりも全然良かった。予告ではハン・ソロがあまりにも近所のにいちゃんみたいな感じで宇宙のワルいヒーローには全く見えなかったのが心配だったのだが、この映画はかなり未経験で若かった頃のハン・ソロの話で、とくに開始時点では誰も行きたがらないような辺境のコレリアでちんけな盗みなどに精を出す、垢抜けない田舎町(まあ、田舎というにはコレリアはごみごみしすぎてるが)のチンピラだ。さらに後のハン・ソロから想像できないようなピュアな愛でキーラを愛しており、精神的にも子供っぽいので(そのわりにはちょっとエアレンライクの見た目が大人すぎるってのはあるのだが)、隣のにいちゃんみたいな感じでも全然大丈夫だった。

 ハン・ソロを駆け出しのチンピラみたいにしたのはランド(ドナルド・グローヴァー)との対比をつけるためだろうと思うのだが、ランドは若々しいのに最初からまるっきりランドである。グローヴァーのほうがエアレンライクより年上とか信じられないくらい若々しいのだが、大もうけして1度引退し、いんちき賭博に精を出すカリスマ的な姿はめちゃめちゃ魅力的で、『風と共に去りぬ』のレット・バトラーみたいだし、さらに正編のランドにすんなりつながる。どう見てもモテモテなのだが(たぶん男にも女にもモテてモテて困ってるだろう)、本人が誠意を持って愛してるのはランドにはないある種の清廉さを持っている革命家ロボットのL3だっていうところもグっとくる。色男が最後まで忠誠を尽くす特別な女ということではL3は『アイアンマン』のペッパーとか007の先代Mみたいな立ち位置なのだと思うが、L3はこういうお姫様や女王様みたいな見た目の女性たちとはちょっと違って、見た目は性別のないロボットだが性自認が女性である。ボロボロになってしまったL3を抱きしめて、初めて感情を露わにするランドはとても切ないし、さらにその切なさは種を越えた愛を示すクィアなものでもある。いやとにかくランドがいいキャラなので(そしてランドとのキャラかぶりを避けるためにハン・ソロを好青年っぽくしすぎてしまった感じもあり…)、ランド主役のスピンオフを作るべきだったのかもしれない。

 なお、ファム・ファタルっぽいキーラとハン・ソロの関係はけっこう陳腐な感じもあり、全体的にハン・ソロ周りは男同士のほうが関係の描き方がエロティックだ。ランドとハン・ソロの「お前なんか大嫌いだ」「知ってる」という正編に引っかけた爆笑のやりとりはもちろん、ハン・ソロと若々しいチューバッカのケモナー爆釣サービスカットとしか思えないシャワーシーンとか、ハン・ソロベケットのねじくれた師弟関係とか(最後にハン・ソロ先に撃つところも正編にひっかけた描写になってる)、ブロマンスをほのめかす場面がいっぱいある。なお、ベクデル・テストはパスしない。