ヴォードヴィル劇場で『理想の夫』を見てきた。演出はジョナサン・チャーチで、言わずと知れたワイルドの有名作である。セットや衣装はウェストエンドらしい凝ったもので、音楽などもいろいろ工夫している豪華なプロダクションだ。
基本的には笑いのツボをおさえたしっかりしたコメディで、お金と野心が渦巻く19世紀末のロンドン社交界を描写しながら、現代に通じる芝居としてうまく提示している。見所のひとつはアーサーを演じるフレディ・フォックスとキャヴァシャム伯爵を演じるエドワード・フォックスがホンモノの親子だということだ。エドワード・フォックスはもう80過ぎているのでいかにもちょっともごもごしゃべるおじいちゃんという感じだが、さすがに親子の掛け合いは息があっていた。フレディ・フォックスは『ユダの接吻』で輝くばかりに美しいアルフレッド・ダグラス役を演じていたが、このアーサー役はだらしないダンディではありつつももうちょっと現代風でかつ良い人そうな感じになっており、いざとなるといろいろな悪知恵は働くのだが根本的に悪いことは全然できなそうな、心の優しいアーサーだ。
一方、ロバート(ナサニエル・パーカー)はけっこう野心満々に見えるというか、清廉な政治家ではあるものの、この人は実は心の中では権力のセクシーさに魅せられているんだろうな…という感じがした。若い頃、男爵に情報を売ったことを回想する場面では、おそらく心底男爵に心酔していたのであろうということがわかるような語り口になっており、ちょっとエロティックな感じかする。ロバートがいつも堂々として活動的なガートルード(サリー・ブレトン)を愛しているのも、ガートルードがパワーのある女だからなんだろうと思う。その点ではロバートは実はチヴリー夫人(フランセス・バーバー)とけっこう共通しているところがあるかもしれない。チヴリー夫人はガートルードに比べると派手な衣装で人目を惹くちょっと猫みたいな感じの中年熟女で、チヴリー夫人としてはこれでいいのだが、残念なのはガートルードと同じ学校に通っていたとは思えないくらい年齢差があることである。これについてはチヴリー夫人の役者を若くするか、ガートルードの役者をもう少し年上にしたほうが良かったかもと思う。