別にIRAはハンサムじゃなくたっていいんだよ?〜『マクガワン・トリロジー』(ネタバレあり)

 シェーマス・スキャンロン『マクガワン・トリロジー』を見てきた。小川絵梨子演出で、3幕もの…というよりは3本の短い戯曲がつながってるみたいな芝居である。

 主人公はマクガワン(松坂桃李)というIRAの殺し屋で、80年代の北アイルランド紛争が舞台である。マクガワンはとにかくたくさん人を殺すのだが、第1幕ではイカれたテロリストとしてIRAのパブに登場して大殺戮をするものの、第2幕、第3幕でだんだんマクガワンと近しい人たちのかかわりが描かれるようになり、徐々に人間化されていく。

 かなりブラックユーモアたっぷりの作品なのだが落とし方はけっこう真面目…というか、先日とんでもない終わり方をする『ウィー・トーマス』を見たばかりなので(こっちはイカれすぎててIRAを追い出されたテロリストが主人公だけど)、むしろちゃんとした芝居だと思った。しかしながらなぜ私は10日に2回もイカれたアイルランドナショナリズムのテロリストが人を殺しまくる芝居を見たのだろうか。そしてなんでどっちのイカれたテロリストもすっごくハンサムなのだろうか、別にアイルランドのテロリストがハンサムである必要はないと思うのだが…

 台本じたいにはすごく可能性があると思うのだが、全体的に翻訳のせいなのか演出のせいなのか、台詞が機能してないと思えるところがけっこうあった。とくに第1幕は、全体的に緊張したスピード感が欲しかったのはわかるのだが、台詞が早口すぎる。マクガワンがものすごくいろんなポピュラーカルチャーとか政情とかに言及しながら突然爆発的な行動を取ったりするのだが、大量の台詞を全部一息でかみ殺すみたいな感じで言っちゃうので、イマイチどこで笑えばいいのかわからなかった(ちなみにそれでも私は何度か残虐場面でフいてしまったのだが、周りの人は笑ってなかった…)。ところどころ台詞をゆっくり言うところを作ったほうがいいと思うし、あと翻訳ももっとなんかわかりやすくしたほうがいいんじゃないかと思う。入ってきた瞬間からなんかヤバさを漂わせているのに突然ポゴを踊り始める松坂桃李のマクガワンの存在感は悪く無かったので、残念だ。

 このやたら早い台詞回しについては、第2幕、第3幕はちょっと良くなったと思う。ただ、第2幕については台本じたいの問題なのか翻訳の問題なのか、なんかものすごくシュールでへんてこりんな場面であるはずだと思うのにそうでもなくて、違和感があった。第3幕の高橋恵子認知症のお母さん役で出てくるところは良かった。

 ちなみに全体的に音楽の使い方は大変良かった。いかにも80年代っぽい選曲だったのだが、個人的には幕間にアンダートーンズが流れていたのがツボであった。アンダートーンズは北アイルランドが輩出した最も優れたパンクバンドである。