通りすがりのおばちゃんには言えること〜『アンナ・クリスティ』

 栗山民也演出『アンナ・クリスティ』を見てきた。ユージン・オニールの有名戯曲で、ジュード・ロウが出たのをロンドンで見たことがある…のだが、正直その時は話が古くさく感じて全然面白いと思わなかった。ところが、今回見たプロダクションはけっこう良かったように思う。

 まず、アンナ役の篠原涼子がたいへん良かった。篠原アンナは自由を求めているが、時代の制約とつらい境遇のせいでそれがなかなかかなわない女性だ。酒場に入ってくる時から明らかに疲れ切っていて、それでも鋭く酒場にいるおばちゃんのマーシーが自分と同類だということを嗅ぎ取って自分の過去の話をするところは、アンナの聡明さと、疲弊でそれが押し隠されてしまっていることがよくわかる。それから、以前見た時はマット役がジュード・ロウでハンサムすぎたのだが、佐藤隆太のマットはからっとした陽性な感じで、たぶんこの人、全然人生についてちゃんと考えたことがなくてなんかひょっとするとものすごいバカなのでは…という感じがするので、ぐだぐだ悩んだり暴れたりするのも、まあたぶん初めて人生について真面目に考えたのだろうから…みたいな感じで許せる気がする。アンナとマーシーは賢い女同士だから、通りすがりでもめざとく相手の気持ちを察知して話すことができるが、マットはアンナに比べるとあまりにも単純な男なので、なかなか過去のことを言い出せない。そのへんはかなり説得力がある。

 ただ、戯曲の終わり方はやっぱりちょっと古くさいというか、マットがアンナに自分が初めて愛した男だと誓わせるところはちょっと古風にすぎると思った。それからこれはなんか栗山民也のクセなんだろうと思うのだが、最初の酒場のセットが綺麗すぎると思う。ここは場末の酒場なんだから、もっとボロい感じのほうがよかったのではないだろうか。