ユタ出張(8)ユタシェイクスピアフェスティヴァル、抱腹絶倒の笑劇にKKK批判をからめたThe Foreigner(『ガイジンさん』)

 ユタシェイクスピアフェスティヴァルでラリー・シュー作、ヴィンセント・カーディナル演出のThe Foreigner(『ガイジンさん』)という芝居を見てきた。

 主人公は病的にシャイなSF雑誌の校正係、チャーリー(マイケル・ドハティ)。妻につまらない男だとバカにされ、23回も浮気されてほぼ結婚が崩壊しているのにまだ愛情が捨てられない。そんなふうに疎遠になっている妻が大病で入院してしまい、精神的な危機に陥ったチャーリーは、親友であるイギリスの軍人で爆発物の専門家であるフロギー(クリス・ミクソン)とともに、気のいい中年女性ベティ(コリーン・ボーム)が経営するジョージア州のリゾート民宿に休暇にやってくる。フロギーは仕事で少し宿をあけることになっているのだが、シャイな上精神的にヤバいことになっているチャーリーは一切周りの人と話したくないと言い張る。困ったフロギーは、ベティが「私もあなたみたいに世界を回って外国の人たちと会ってみたい」というのを聞いて、チャーリーがとある遠方のエキゾチックな国からやってきた友達であるため、まったく英語が話せないというウソをつく。そういうわけでチャーリーは休暇の間、まったく英語がわからない外国人のふりをすることになるが…

 私はこの芝居を全く知らなかったのだが、アメリカでは80年代に初演されて以来大変人気のある演目で、とくにアマチュア演劇とか学校演劇で好んで上演される作品らしい。このフェスでも以前に一度上演されたそうで、今回もお昼の上演なのにほぼ満員に近いくらい混んでいた。たしかに大変わかりやすくて笑える作品で、しかもアマチュアがやっても形になりそうな感じがする。チャーリーが話すハナモゲラロシア語のような言葉は聞くだけでおかしいし、言葉が通じない外国人のフリをすることで、南部の人たちがここぞとばかりにサザン・ホスピタリティを発揮して優しくしてくれ、今まで友達がいなかったチャーリーが心を開けるようになるというのも楽しい。後半ではチャーリーが外国人だということに腹を立てた地元のKKKが民宿を襲撃するという大変な展開になるのだが、ここでチャーリーがハナモゲロシアンとSF小説で読んだ宇宙人語を組み合わせた変な台詞とトラップドアを使ったトリックでバカなKKKをビビらせて追っ払ってしまうというケッサクなオチがつく。作り込んだキャビンのセットにツボを心得た役者陣の演技、さらに最後は大爆発まであって、大笑いした。とくにチャーリーを演じるドハティのまるでサイレント映画のスターみたいな奇妙きてれつな動きがとても面白くて、オタクっぽくて遊び心があるが異常にシャイでもあるというチャーリーを生き生きと演じていたと思う。

 この作品には、民宿に泊まっている仲間として、南部美人の女相続人キャサリン(ケイティ・フェイ・フランシス)とその弟のエラード(ロブ・リオーダン)が出てくるのだが、エラードははっきりしないもののなんらかの発達障害があるらしいという設定である。エラードはとても心が優しいし、いろいろな特技があるのだが、ちゃんとした療育を受けていない…というか、キャサリンの婚約者である説教師のデイヴィッド(ジョシュ・ジェファーズ)がエラードの財産を狙っていじめるせいでむしろ精神状態が悪化してる。チャーリーがエラードと親しく付き合うようになるとエラードの精神状態は大変安定するようになり、いろいろな特技が前面に出てくるようになるのだが、このあたりは障害のある登場人物が笑いものにならないようとても気を遣っているという印象を受けた。なお、ユタシェイクスピアフェスティヴァルでは芝居の翌朝にプレイセミナーという観客が好きなことをディスカッションする無料セッションがあるのだが、そこで行われた解説によると、演出家や役者もエラードが笑いものにされるようなことだけは避けたかったので、ちゃんと奥行きのある人物になるようとても気をつけたらしい。

 なお、プレイセミナーでは、「前回、このフェスでThe Foreignerを見た時はKKKが出てくる場面で笑えたけど、今回は怖かった。以前は昔のこと、現実にはユタで起こらないようなことだと思えたが、最近は本当にKKKがいるのでリアルだ」という感想があって、なるほどと思った。ちょうどプレイセミナーの週末がUnite the Rightの一周年記念マーチの日にあたっており、この芝居に出てくるKKKアメリカの人たちにとっては非常に現実的な脅威であるととらえられるらしい。