『ヴァレリアン』と『ジュピター』と『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を足して意識高くした感じ〜『ア・リンクル・イン・タイム』(ネタバレあり)

 エイヴァ・デュヴァーネイ監督の新作『ア・リンクル・イン・タイム』を見てきた。

 主人公はアメリカに住む13歳の少女メグ(ストーム・リード)。天体物理学者で意識による宇宙旅行を研究していた父のアレックス(クリス・パイン)が4年前に疾走し、弟のチャールズ・ウォレス(デリック・マッカビー)と、同じく物理学者である母ケイト(ググ・バサ=ロー)と一緒に暮らしているが、父の失踪後精神がかなり不安定になり、学校ではいじめられている。ひょんなことから学校の人気者カルヴィン(リーヴァイ・ミラー)と親しくなるが、そこに突然時空を操る3人の女たちが現れる。危機に陥っているアレックスを助けるため、メグ、チャールズ・ウォレス、カルヴィンは宇宙の闇の中心である惑星カマゾツを探す旅に出かけるが…

 全体に極彩色のサイケデリックな美術やファッションが特徴で、見た目は『ヴァレリアン』を子供向けにしたみたいな感じである。なんかもうあまりにも色調がカラフルだし、時空を操る3人の女たちはすごいファッションで、美術や衣装の担当者は何かキメてなんじゃないかというようなヴィジュアルだ。見ていてラリりそうになる。

 全体としてやりたいことはわかる。メガネをかけたギークで、いじめられており、アフリカ系アメリカ人である少女メグが様々な試練を乗り越えて父親と弟を取り戻すというのは、女の子だったり、アフリカ系アメリカ人だったり、いじめられていたり、科学が好きなのに周りがなかなか認めてくれないような子供たちを元気づけるためにはとても適したプロットだ。世間的な意味では可愛くて人気のある女の子とはいえないメグが、可愛い女の子になれるという悪の誘惑を振り切って正しいことをし、さらにそこに白人で人気者の男の子であるカルヴィンが賛同してメグを好きになるという展開にも、勇気と誠実が最も重要で、人種とか学校でのカーストを越えて連帯できるということを示すメッセージがある。助けてくれる謎の時空超越者たちが3人とも女性で、いろいろな民族的バックグランドを持っており(リース・ウィザースプーンが白人、オプラ・ウィンフリーがアフリカ系、ミンディ・カリングが南アジア系)、子供たちに対してたまに皮肉を言ったりはするものの基本的にとても協力的で若者を支援するという気概に満ちているのもポジティヴな側面だ。
 
 一方で話はかなりめちゃくちゃで、筋が通ってない。ファンタジーなのである程度は理屈がついてなくても大目に見たほうがいいとは思うのだが、とにかく話が整理されていなくて、「どうしていきなりそうなった」みたいなところがたくさんある(話の緩さは『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を思い出した)。日本公開がまだなのであまりたくさんネタバレするのは避けたいのだが、まず序盤では、ハンサムで人気者のカルヴィンはかなり父親との関係に問題を抱えていてそのせいで内心学校になじめないみたいなのに、そのへんが丁寧に描かれていないので、いきなりメグに近付き始めるのがまるで女の子の夢ファンタジーみたいに見えてしまうという問題がある(イケてない中学生女子の妄想みたいだっていう点では『ジュピター』に近いかもしれない)。突然3人の女性が出てきて転送が始まるあたりからは話がかなり散らかる。あと、最後にアレックスがチャールズ・ウォレスを諦めるところは私はかなり許せなかった…というか、私がチャールズ・ウォレスならあの後グレると思ったのだが、そのへんも丁寧な描写が足りないせいで後味が悪くなっている。

 とはいえ、これは比較対象としてあげた『ヴァレリアン』とか『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』とか『ジュピター』にも言えることだが、クリエイターやキャストがポジティヴな映画にしたいと思ってやっており、かつやる気満々で楽しく作っている映画だという雰囲気はあるので、見ていてイヤな感じがするところはない。ツッコミどころは山ほどあるが、まあ不愉快さはない映画である。ベクデル・テストは3人の女たちやメグの会話でパスする。