若い芝居、ロミオの夢~カクシンハン・スタジオ『ロミオとジュリエット』

 カクシンハン・スタジオの『ロミオとジュリエット』を見てきた。生まれて初めてポストトークも頼まれたので、けっこう緊張して目を大きく見開いて見た。

 

kakushinhan.org

 

 10ヶ月前に訓練を始めたばかりの初心者俳優で行う成果発表会的なところもある公演ということで、いろんな意味で役者が若いため、全体的にとても若い『ロミオとジュリエット』だ。セットはほとんど何もない黒い四角形の台で、周りにパイプイスが並べられ、役として登場していない役者たちは舞台にあがらない間、そこに座るようになっている。衣装も黒っぽいシンプルな現代の服装で、ヴィジュアルがとても原始的というか簡単である。主役の2人は情緒不安定なティーンエイジャーで、原作では2人を助ける大人として出てくる乳母やロレンス修道士の台詞についても、説教臭いところや成熟した知恵が感じられるようなところはほぼカットか、あるいはコロスのように周りに座ってる役者がみんなで言うようになっている。モンタギューとキャピュレットの大人たちは全く頼りにならないし、このヴェローナに大人の叡智なんていうものは存在しない。大人の世界は腐っている。

 

 また、このプロダクションでは毒や薬の効能がけっこう強調されており、ロレンス修道士がジュリエットに薬を渡すところでは緑っぽい照明の中でいろいろな人々がジュリエットに取り憑く悪夢みたいな演出がなされていた一方、薬屋がロミオに毒を売る場面はとても暗くて動きの少ない演出になっていて、対比がはっきりしている。ジュリエットがもらった薬とロミオが買った毒は、それぞれ全く違う目的で渡されたものだということが演出の違いで示されているのだが、結局どちらも不幸を呼び寄せてしまうという皮肉がある。

 

 最後、全部終わった後に原作にはない場面が付け加えられており、天使の羽根をつけたロミオとジュリエットがステージ前方で語り合う幸せなエピローグふうの一場がある。ここについて、私はこれはロミオの夢みたいだと思った。この作品の序盤部分で、妖精の女王マブのせいでみんなが望みにあったような夢を見るのだとマキューシオが語るところがある。どうもこのプロダクションではマキューシオはロミオにぞっこんらしいので、この台詞を言っている本人はたまにロミオと楽しく過ごす夢でも見ているのかもしれないし、若者達は恋や素晴らしい将来について変な夢を見たりするものだ。ロミオはマントヴァで何か夢を見たということを言っており、ちょっとだけ夢の内容を独白で話すのだが、私は何か他にもロミオはジュリエットが出てくる夢をいろいろ見てるんじゃないかと前から思っていた。このプロダクションの最後のシークエンスは、私がロミオが見ていそうだなと思う夢の内容にピッタリだと思う。

 

 全体的にはとても面白かったのだが、訓練し始めてから10ヶ月ということで、やはり発声と台詞回しについてはかなり改善すべき点がある。とくにジュリエットは緊張していたのか、たまに噛んでいた。このへんは今後の課題だと思う。