閉塞空間での恋の狂気~うずめ劇場『フェードル』

 東京アートミュージアムでペーター・ゲスナー演出、うずめ劇場『フェードル』を見てきた。言わずと知れたラシーヌの有名作で、美術館の階段の踊り場と廊下みたいな狭いコンクリートスペースでの上演である。

 最初はこんな狭いところで大丈夫かと思ったが、上下にのびた階段を入退場にうまく使っているのでそこまでアクションが制限されるという感じではなく、一方でそれでも生じる息苦しさが、ヒロインであるフェードル(後藤まなみ)が感じている閉塞感によく似合っている。フェードルは最初、侍女が抱えた着物に身を隠すようにして出てくるのだが、ヴィーナスの呪いによって義理の息子イポリットに道ならぬ恋をしてしまったせいで胸が詰まるような想いに苦しんでいる。一方で階段の上の高いところから出てくる若いアリシー(西村優子)はスポーツ選手みたいに活動的でのびのびしており、狭いところにおさまっていられる女ではない。やはり若くて軍功を立てたいと考えているイポリット(石川小太朗)が、身を狭めているフェードルではなく、同じく元気に動き回るアリシーに惚れるのは似た者同士で当たり前であり、フェードルに勝ち目はない。

 

 全体的にはとても緊張感のある面白い上演だった。ただ、フェードルとアリシーがかなり強烈で、イポリットの存在感が少し薄く見える。とはいえ、この演出ではイポリットは自分が魅力的なことに全く気付いていない、元気で善良だが多少ボンクラな若者ではあるので、ちょっと存在感が薄いくらいでもいいのかもしれない。