リアルな展開と幻想ミュージカル~『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』(ネタバレあり)

 『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』を見てきた。

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 父親を亡くしたばかりの主人公のユリシーズ(ルカ・カイン)は自分のジェンダーに違和感があるらしくてうまく学校の男の子カルチャーになじめず、いじめられている。母のアマラはあまり理解がなく、おばのローズはさらにトランスジェンダーやゲイに対する偏見が強いので、ユリシーズは家庭に助けを求められない。そんなユリシーズはある日、ふとしたことでセクシュアルマイノリティの若者たちを支援する教会の活動サタデー・チャーチを知り、そこでゲイやトランスジェンダーの若者たちと知り合うようになるが…

 

 家出したユリシーズがお金に困ってふとしたきっかけで売春しなければならなくなるというようなリアルで辛い展開に、幻想がミュージカルで入ってくるようなちょっとファンタジー的な要素もある作品である。このリアルな話とミュージカルの兼ね合いがちょっと荒削りであまりかみあっていないというところはあるのだが、母親のアマラが結局はユリシーズを受け入れようと努力し始め、ユリシーズはボールにデビューするという終わり方で、後味はそんなに悪くない。ユリシーズとレイモンドが初めてキスした後、地下鉄の階段が急に花吹雪が舞ったみたいにキレイになるというような幻想描写はちょっとコミカルでなかなか面白かった。

 トランスジェンダーの女優陣がユリシーズを助けるおねえさん格の役柄で登場しており、エボニー役のMJロドリゲスは『ポーズ』にも出ているそうだ。なお、サタデー・チャーチの管理人として出てくるジョーンがなんか見たことある顔だと思ったら、後で確認したら有名なアクティヴィストでアーティストのケイト・ボーンスタインでびっくりした。ガンで入院したというような噂を聞いていたのだが、元気そうで何よりだ。このジョーンとエボニー、ヘヴン、ディジョンたちがサタデー・チャーチの夕食について話すものすごく短い会話があるので、どうにかベクデル・テストはパスする。

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