スミスとリック・アストリーなんかぶっ飛ばそう~『バンブルビー』

 『バンブルビー』を見てきた。

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 舞台は1987年のカリフォルニア州である。18歳の誕生日を目前に控えたチャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は父親をなくしたショックからなかなか立ち直れずに鬱々とした日々を送っていた。車好きのチャーリーは、誕生日にハンクおじさんの修理工場で見つけたボロボロの黄色いフォルクスワーゲンビートルをもらうことになり、うまく修理して動かせるようになる。ところが、そのフォルクスワーゲンビートルはサイバトロンでの戦いを逃れて地球にやってきたが、戦闘で負傷して記憶を失ったオートボットB-127だった。愛車がロボットであることに気付いたチャーリーは驚くが、B-127をバンブルビーと名づけて大切にし、やがてお互いなくてはならない存在になる。ところが、バンブルビーは敵であるディセプティコンに狙われていた。

 

 全体的に、悪名高い『トランスフォーマーフランチャイズとは思えないほとちゃんとした面白い映画である。私の考えでは2007年の『トランスフォーマー』はそこまでひどい映画ではなく、主人公のサム(シャイア・ラブーフ)もミカエラ(ミーガン・フォックス)も人好きのするキャラで、とくにイヤな感じはしない高校生の青春アクションものだったのだが、その後のシリーズはどんどんひどくなる一方だった。アクションは撮り方が意味不明で流れがよくわからないわ(アクション映画なのに…)、脚本はめちゃくちゃだわ、ギャグは寒くて笑えないわ(くだらない人種差別ネタも批判された)、ラジー賞常連も当然という感じである。内容以外にもいろいろ問題があり、撮影中に事故が起こるわ、マイケル・ベイとケンカしてミーガン・フォックスが出て行くわ(別の映画で協働したケイト・ベッキンセールベイの態度がひどかったと言っていて、どうもあんまり付き合いやすいボスじゃないのではと思う)、史跡を借りて撮影した時の不適切な使用で批判されるわ、この職場環境は大丈夫なのかという感じだった。

 

 ところが前日譚の『バンブルビー』は監督がトラヴィス・ナイトに変わり、Birds of Preyの脚本家であるクリスティーナ・ハドソンが台本を書いて、大変まともな映画になった。まず、アクション映画としてはロボット同士が戦う流れがちゃんとよくわかるように撮影・編集されているのが大きい。さらに脚本が圧倒的にまともで、高校生の青春ものという点では第1作の雰囲気に近いところに戻った一方、『アイアン・ジャイアント』とかジョン・ヒューズの高校映画とかの要素を取り入れて、チャーリーが父の死を乗り越えるまでの過程をじっくり描くようにしている。寒いギャグもなくなり、ちゃんとしたユーモアのあるノスタルジックな雰囲気で全体のトーンが統一されている。ヒロインのチャーリーは魅力的だし(ベクデル・テストは母親との会話でパスする)、バンブルビーは可愛くて、感じていることや考えていることがちゃんとわかるように描かれている。軍人のバーンズ(ジョン・シナ)やチャーリーのボーイフレンドであるメモ(ジョージ・レンデボーグ・Jr)など、脇を固める登場人物も芸達者を揃えており、とくにデセプティコンのシャッターの声をあてているアンジェラ・バセットはものすごく上手で、声だけなのに威厳とカリスマと悪役らしい恐ろしさを感じさせる。80年代の時代考証もしっかりしている。 ちょっと展開がゆっくりしているように見えるところが少しだけあるとか、チャーリーに女友だちがいなくて孤立しすぎなのになぜかメモだけはチャーリーにぞっこんだというあたりの説明が足りていない感じがするとか、ツッコむところがないわけではないのだが、全体的には笑うところと切ないところのメリハリが効いた演出で、不覚にも涙を誘われてしまうような感動的なところもある。今までのシリーズではなんでこれができなかったのか…

 

 個人的にはスミスとリック・アストリーがほのかにディスられているところが良かった。発声機能を失ってしまったバンブルビーが、チャーリーに直してもらったテープデッキやラジオを使って感情を表現しようとするのだが、チャーリーがスミスの"Girlfriend in a Coma"やリック・アストリーの"Never Gonna Give You Up"(リックロールで有名で、『シュガー・ラッシュ:オンライン』でも使われてた曲)をかけるとバンブルビーがテープを吐き出すのである。私もスミスやリック・アストリーが嫌いなので、バンブルビーの音楽の趣味を高く評価する。