大好きなおばさんについてのホームムービー~『ビリーブ 未来への大逆転』

 ミミ・レダー監督の新作『ビリーブ 未来への大逆転』を見てきた。現役のアメリ最高裁判事であるルース・ベイダー・ギンズバーグのキャリア初期の史実を映画化したものである。

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 ユダヤ系で女性で子持ちのルース(フェリシティ・ジョーンズ)は夫のマーティン(アーミー・ハマー)と同じくハーバードの法科大学院に入り、その後コロンビア大学への転入を経て優秀な成績で卒業するが、女性のルースを雇う事務所がどこにもなく、結局ラトガース大学の法科教員として働くことになる。法律と性差別を研究していたルースのところに、ある日マーティンが独身男性であるため介護控除を受けられなかったチャールズの案件を持ち込んでくる。ルースは税法が専門のマーティンと組んでこの性差別案件を法廷に持ち込む計画を立てるが…

 

 これ、脚本を書いたダニエル・スティールマンがルースの甥っ子である。つまりは家族の中で尊敬されてるおばさんの話を親戚が映画化、ということで、『グリーンブック』とか、ことによると『ボヘミアン・ラプソディ』と同じく、思い入れのある親しい人について作られた映画だ。しかしながら私は『ビリーブ』のほうがはるかに好きである。別にすごくよくできた映画というわけではないかもしれないし、おばさんの業績を称えたいという気持ちがあるらしいことはわかるが、上にあげた2作に比べるとはるかにイヤな感じとか大仰に盛っている感じがしなくて、イラつくと失敗もするけど家族の中では愛され、頼られているらしい頑固なおばさんの姿が自然に浮かび上がってくる。この映画は、愛情に満ちた心あたたまるホームムービーだ。

 

 ヒロインのルースは融通がきかなくて怒ったり、不機嫌になってしまったりすることもあるが、不屈の精神を持った女性で、その態度が家族を含めて周りを動かすことになる。フェリシティ・ジョーンズの演技が非常に生き生きしており、ルースが奥行きのある人物として浮かび上がってくるようになっているし、脇を固める役者陣も良い。ルースが職場で直面する差別の描き方がかなりリアルで、個人的に覚えのあるようなことがたくさんあった。とくにアメリカ自由人権協会につとめていて旧友であるメルですら、ルースにもっと微笑めとか、良かれと思って性差別的なアドバイスをしてくるあたり、性差別というのは悪い意図を持って行われるばかりじゃないということをうまく描き出している(これは全体の主要プロットである、介護控除の性差別の話でもそうで、悪い意図を持って書かれた法律ではないのだが性差別だというところがポイントだ)。ルースがいつもやりあっていた娘のジェーンからインスピレーションを得て互いに尊重しあえるようになるあたりもぐっとくる(ベクデル・テストはもちろんパスする)。

 

 うちにもこんなおばさんがいたらいいのに…と思って見たい映画だ。ルース・ベイダー・ギンズバーグドキュメンタリー映画である『RBG 最強の85才』も来月公開なので、楽しみである。