コレットが作家になるまで~『コレット』(ネタバレあり)

 『コレット』を試写会で見てきた。 19世紀末、若きコレット(キーラ・ナイトリー)が夫ウィリー(ドミニク・ウェスト)の影響から脱して作家として自立するまでを描いた伝記である。

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 序盤はけっこう『天才作家の妻 -40年目の真実-』とかに近いような展開なのだが、こっちのほうがずっと面白い。コレットの夫でゴーストライターを使って作家工房を運営していたウィリーは、若妻コレットの文才に目をつけ、半自伝的でちょっと扇情的なクロディーヌものを書かせて大ヒットを飛ばす。最初は工房をありのままに受け入れ、夫の影で代筆をすることに満足していたコレットだが、夫以外に恋人(コレットバイセクシュアルなので、だいたいは女性)ができ、だんだん経験を積んでくると事情が変わってくる。とくに貴族の出身で、男装で暮らす勇敢なミッシー(デニース・ゴフ)と愛し合うようになり、コレットもミッシーの影響でもっと自分らしく生きたいと思うようになる。

 

 ウィリーのモラハラがけっこうひどく、そこからコレットが脱するまでがわりとリアルに描かれている。若くて未経験で夫を尊敬していた時のコレットは自分の才能が使われるのにとくに不満がなく、むしろウィリーから評価されて嬉く思っていたのだが、だんだん成熟して大人の女性として考えられるようになってくると、自分が利用されていただけなのだと気付いて反旗を翻すようになる。若いうちはなかなかこういう愛をたてにした搾取に気付かないのだが、コレットは搾取をしてこないミッシーと愛し合うようになって自分が夫にひどい扱いをされていたらしいとうすうす気付き始めるわけである。

 

 トランスジェンダーの役者がシスジェンダーの歴史上の人物を演じており、これはメジャーな映画としてはけっこう斬新な配役だと思うし、トランスジェンダーの役者の才能を活用するためには今後もどんどんやるべきだと思う。ただ、ジェイク・グラフ演じるガストンはそこそこ場面があるのだが、トランスジェンダーの女優レベッカ・ルートが演じるラシルドはほんのちょびっと映るだけなのが残念だ(ラシルドは超有名人だし、いろいろ面白い因縁もあるのだが、そこまで話が進まないうちにコレットの若い頃だけで映画が終わってしまう)。あと、ミッシーの描き方がちょっと曖昧にすぎるところがある。全体的にこの映画はミッシーをトランスジェンダー男性として描きたいみたいで、コレットがウィリーのいわゆる「ミスジェンダリング」(トランスジェンダーの人を現在と違う性別の代名詞で呼ぶこと)を訂正する場面がある…のだが、ミッシーを演じているのは女優だし、2人の恋はレズビアンのロマンスみたいに描かれているところもある。もちろん世紀転換期の人たちに今の感覚を適用するのがおかしいというのはあるのだが、もうちょっと描写に一貫性があってもいいように思った。なお、ベクデル・テストはパスする。