困ったオタク大集合~新国立劇場『かもめ』

 新国立劇場鈴木裕美演出、チェーホフ『かもめ』を見てきた。トム・ストッパードによる英語台本を小川絵梨子が翻訳したものである。キャストは全てオーディションで決めたそうだ。

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 緑の芝生で行う野外上演やお屋敷など、セットはわりとオーソドックスだが、内容のほうは台本のカットも演出も現代的である。チェーホフの戯曲というのはどれも驚くほど現代的だと思うが、この演出は三度のメシより芸術が好きで社会生活にはあんまり向いていない、困ったオタク大集合みたいな作品だ。コースチャが文学論でゴタクを並べる暗い文学青年なのはまあよくある演出だが、このコースチャは通常のプロダクションよりさらにいけ好かない感じである。もうちょっと色男風に作ることが多いはずのトリゴーリンも、周りの人々を自分の芸術のネタとしか思っておらず、書くことにしか興味がないみたいな感じだ。アルカージナもお芝居のことばかり考えている生活力の低い女性で、せっかくいいお天気で外でくつろいでいるのに「ホテルの部屋で台詞を覚えるほうが好き」とか公言しているし、若くて可愛いニーナはそれを聞いて我が意を得たりとばかりに強く賛同する。こいつら全員、こじらせオタクである。

 

 このプロダクションは、こういう困った登場人物の人生を辛辣に描くものだ。好きかどうかは別としてとてもよくできたプロダクションで、オーディションで選んだというだけあってバランスのいいキャスティングになっている。『かもめ』はコースチャにスターをキャスティングしてコースチャが目立ち過ぎることも多いと思うのだが、そうなっておらず、アンサンブルの面白みがある。