それ、ズルくない?~『Wild』(ネタバレあり)

 マイク・バートレットの戯曲『Wild』日本上演を見てきた。東京グローブ座での上演で、演出は小川絵梨子である。エドワード・スノーデンによるアメリカ政府告発にヒントを得た作品だ。

 舞台はモスクワのどこかにあるホテルの一室である。アメリカ政府が行っている不適切な情報収集を暴露した内部告発者アンドルー(中島裕翔)のところに、どうやらアンドルーを手助けしてくれる可能性があるらしいウィキリークスっぽい団体に所属していて「ミス・プリズム」を名乗る女(太田緑ロランス )と男(斉藤直樹)がかわるがわる訪ねてきて…という話である。

 緊張感のあるよくできた台本だし、演出はいかにも小川絵梨子らしく手堅いものだ。ホテルの一室を再現したセットも緻密に作られている。演技にも文句はなく、主演の中島は、台詞回しはもう少し改善の余地があるかもしれないが、突然内部告発者として危険な立場に追いやられてしまった不安や戸惑いをかなりちゃんと表情や仕草で示せているし、脇を固める2人は申し分ない。ウソがまことになるオスカー・ワイルドの『まじめが肝心』を上手に引用しているあたりもオシャレな台本だ(ミス・プリズムというのはこの作品に出てくる重要人物の名前である)。

 

 ただ、これは完全に個人的な好みなのだが、これだけパラノイア的な話を最後にセットの大きなギミックでデウス・エクス・マキナみたいに解決してしまうというのはちょっとズルくないか…と思った。内部告発者の勇気を称えるみたいなところが一切なくて、むしろアンドルーをただ不安でちょっと甘い人みたいに描いているのはまあイギリスの性格が悪い芝居だからしょうがないとしても、「陰謀は実は全部ホントなんですよ!」みたいなオチをセットを使って強引に正当化しているあたりがあまり好きになれなかった。