宇宙でワンオペ聖父子~『ハイ・ライフ』(ネタバレあり)

 クレール・ドニ監督の新作『ハイ・ライフ』を見てきた。

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 映画は宇宙船にひとりで暮らしているらしいモンテ(ロバート・パティンソン)が赤ん坊のウィローを育てながら宇宙船をメンテナンスしているところからはじまる。なんでモンテは宇宙でワンオペ育児をしているのか…ということを、あまり直線的ではないナラティヴで語るという作品だ。最初はこの宇宙船には複数の人が乗っており、犯罪者を対象とする生殖実験のプロジェクトとして作られた船だったが、どんどん死者が出て…という経過が語られる。

 

 まるでドニが20年以上前にとった『ネネットとボニ』が終わったところから始まるみたいな映画である。『ネネットとボニ』では、グレゴワール・コラン演じるボニが妹の産んだ赤ん坊を奪って抱きしめる聖父子像で終わる。この映画はロバート・パティンソン演じるモンテが赤ん坊を世話しているところから始まっており、ドニはとにかく「聖父子」にこだわりがあるみたいだ。そしてだんだん、この子はモンテが生殖実験の被験者となり、ディブズ博士(ジュリエット・ビノシュ)に睡眠薬を盛られてレイプされ、そこで採取された精子が他の被験者女性に使われて産まれた子供であるらしいことがわかってくる(ベクデル・テストは被験者女性とディブズ博士などの会話でパスする)。この懐胎過程はかなりショッキングなのだが、この映画のモンテにとっては一種の無原罪の御宿り(性交を介しない受胎)みたいに描かれている。モンテはディブズ博士が死ぬ直前に自分が父親だということを知らされ、それを受け止めるわけだが、これは突然の受胎告知を受け容れた聖母マリアに重なる。最後の展開はかなり難しいところだが、個人的にはあの光は被昇天と解釈するのがいいんじゃないかな…と思った。