さわやか版『ヘレディタリー』~『ハロウィン』(ネタバレあり)

 『ハロウィン』を見てきた。超有名シリーズの新作である。この間第1作を見たばかりなのだが、基本、2作目以降の設定は全部無視して第1作の続編という位置づけなので、とくに問題なく理解することができた。

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 前作の40年後、精神病院に入院していた殺人鬼マイケル・マイヤーズ(ジェイムズ・ジュード・コートニー)が再び護送されることになる。前作で殺戮を生き延びたローリー(ジェイミー・リー・カーティス)はひどいPTSDを抱えて生きており、娘のカレン(ジュディ・グリア)との関係は破壊的な状態で、孫娘アリソン(アンディ・マティチャック)の仲立ちもあまりうまく機能していない。そしてハロウィンの夜、護送車から脱走したマイケルがハドンフィールドに戻ってきて…

 

 全体としてはほとんど前作と同じような構成で細部をうまくアップデートしているという感じである。ローリーは40年たってもトラウマに苦しんでおり、なんと森の中でプレッパーの基地みたいな重装備の家を作り(ただし備えているのは核戦争とか災害じゃなくマイケルである)、日夜護身術に励んでいる。娘のカレンについても過激な方法で護身術の英才教育を施そうとしたため、虐待として12歳で親権を取り上げられてしまったらしい。もちろん母娘の関係は最悪なのだが、このあたりの描き方が妙にリアルだ。いくらひどい母親とはいえ明らかにPTSDで苦しんでいるので完全にローリーを断罪することはできず、できれば会いたくないが絶縁もちょっと…という調子のカレンと、事件のせいで暗くて気難しい性格になってしまったローリーの関係がわりと丁寧に表現されている。孫娘のアリソンはまだ高校生なのだがとてもよくできた子で、おばあちゃんと母親に仲直りしてほしいと思っているのだが、全然うまくいっていない(母と娘の関係が焦点なので、ベクデル・テストはもちろんパスする)。しかしながら最後はこの3人が団結し、マイケルに立ち向かう。

 

 そしてこの作品、方向性は違うがものすごく母系の力を強調しているところが『ヘレディタリー』などに似ていると思った。『ヘレディタリー』は強烈な女たちの中でなすすべもなくいいように利用される男たちをマゾヒスティックに描いた作品だが、新版『ハロウィン』でも男たちが全く役に立たない、というか女たちの邪魔をするだけで、家族で団結して戦う女たちが立派だ、というオチになる。カレンの夫でアリソンの父であるレイはかなり無神経で、アリソンのボーイフレンドであるキャメロンが同じ席にいるというのに下品な発言をして場を白けさせたりするのだが、そのせいかどうかはともかくあっさり殺されて放り出されてしまう。警察官であるホーキンズもローリーを助けようとして殺されてしまうし、サルテイン医師はマイケルに取り込まれて殺人を犯した後自分もやられてしまう。アリソンの高校の男友達はバカばっかりである。一方、見たところはかなり心に問題を抱えているローリーはいざとなると強くてしっかり家族を守るし、カレンもアリソンも賢く立ち回る女たちで、なんだかんだで女同士の強い絆で結ばれている。男は全然頼れない、女だけの母系家族で脅威と戦わないといけない…というさわやか『ヘレディタリー』みたいな作品だ。最近のアメリカではこういう不自然なくらい母の力を強調した映画が受ける素地でもあるんだろうか…トップがダメ父の典型みたいな人だからか?