やわらかい布~KAAT『恐るべき子供たち』

 KAATで『恐るべき子供たち』を見てきた。ジャン・コクトーの小説の舞台化で、白井晃演出である。

 あらすじはだいたい原作どおりで、2人だけの世界を持っているエリザベート(南沢奈央)とポール(柾木玲弥)の姉弟と、その友人で同居することになるジェラール(松岡広大)とアガート(馬場ふみか)の関係の変化を描くものである。ただ、おそらくはヴィジュアルのせいだと思うのだが、小説を読んだ時とはだいぶ印象が違う。

 舞台の上(中空)にも表面にもやわらかい布がふんだんに使われたセットは、形が変わりやすく気まぐれな子供時代を象徴しているのかもしれない。この布のセットは、エリザベートの新婚の夫がイサドラ・ダンカンみたいな車の事故で死んでしまうところで非常に上手に使われており、首が吹っ飛ぶ演出が面白い。

 しかしながら、セットの子供らしさとはうらはらに、この芝居に出てくる恐るべき子供たちはあまり子供っぽくないというか、わりと血肉をそなえた若い男女である。コクトーの小説に出てくるエリザベートとポールの姉弟は大人としての生々しい肉体を備えていないみたいに感じられるところがあるのだが、この作品ではとくにエリザベートがけっこう肉々しい大人の女性で、ちょっとイメージが違うというか、「子供」らしさに欠けるような気がした。それはそれで予定調和に陥らないための工夫として生きているのかもしれないが、この作品でエリザベートがあまりにも現実の大人の女性に近いと、彼女の最後のたくらみがちょっとミソジニー的に見えかねない気がするのである。もう少し全体を子供のゲームみたいに提示してもいいのではないかと思った。