演出は悪くはないが、翻訳台本がちょっと~『お気に召すまま』(ネタバレあり)

 東京芸術劇場で熊林弘高演出『お気に召すまま』を見てきた。ロザリンドが満島ひかり、シーリアが中嶋朋子、オーランドが坂口健太郎、オリバーが満島真之介、タッチストーンが温水洋一という大変な豪華キャストである。

 非常にエロティックで混沌としており、ちょっとダークな演出で、森は衣類が散らかったゲートで表現されている。わりと衣装の露出度が高く、オーランドが上半身の筋肉が丸見えになるような格好になったり、ギャニミードに扮したロザリンドが足丸見えのシャツ姿になったりする。逃げた公爵一行は森で男性同士の乱交パーティを開いているようだし、ジェイクイズはゲイで(これはもとの戯曲でもちょっとそうかもと思わせる台詞がある)、出会った男性を手当たり次第に口説いている。ギャニミードに扮したロザリンドがオーランドと結婚式ごっこをする場面では、オーランドがロザリンド/ギャニミードのパンツを脱がせようとする演出まである。最後はロザリンドとオーランドが結婚するのだが、あまりヘテロセクシュアルなところに回収されず、結婚式の後にロザリンド/ギャニミードを思い切れないフィービーがロザリンドにキスをしたり、終わり方が性的に曖昧なのも悪くはない。

 

 このプロダクションではかなりボディタッチが多く、男性同士がしょっちゅう身体を触り合っているので、当然ロザリンド/ギャニミードもボディタッチされる機会が多く、そのため女性であることがバレる可能性が高くなる。ジェイクィズがギャニミードが女性であることに気付いたり、オリバーが失神の場面で助け起こす時に気付くという演出はわりとあるのだが、このプロダクションではそうした演出を踏襲している。オーランドも終盤ではギャニミードが女性であることに気付いているようだ。

 

 ただ、全体的に翻訳の台本にちょっと問題があるように感じたのと、細かい演出に疑問があるところもある。既に刊行されている翻訳を使わず、下ネタ満載の新しい台本を使っているのだが、これがちょっとあまり良くないと思うところも多かった。とくに長い台詞ではパッと聞いた感じ耳に入ってきづらいような文章がいくつかあり、役者陣も言いにくそうだと思った。あと冒頭のシーリアの台詞で「そなた」とかいう言葉が使われており、いくらシーリアがわざと仰々しいしゃべり方をしているからといってこれはやりすぎだ(全体的にシーリアの話し方はもっと現代女性らしくしたほうがいいと思った)。フィジカルな演出に注意がいきすぎて台詞がおろそかになっているように思われるところが少々あったので、もともとある翻訳を使ってそれをベースに変更をしたほうがよかったと思う。

 

 あと、これは純粋に私の好みの問題だが、オーランドが腹がすかせて機嫌が悪くなり、公爵一行を襲撃する場面はもうちょっとオーランドの性格上の弱点(空腹に弱い)がわかるように面白おかしく演出したほうがいいのではないかと思った。また、ジェイクィズがオーランドにまでモーションをかけるのはやりすぎ…というか、ジェイクィズは台詞からしてロザリンド/ギャニミードのことは気に入っているがオーランドとはそこまで気が合ってないのではと思われるフシがあるので、これにあわせた演出にしたほうがいいと思う。