ロック様の『ヘンリー五世』モーメントあるよ!~『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

 『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』を見てきた。一応『ワイルド・スピードフランチャイズの前作は全部見ているのだが、映画館で見るのは初めてである。

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 『ワイルド・スピード』のスピンオフで、人気キャラクターであるホブズ(ドウェイン・ジョンソン)とショー(ジェイソン・ステイサム)がコンビになって、ショーの妹でウイルス兵器を隠し持つMI6エージェントであるハッティ(ヴァネッサ・カービー)を狙うテロ組織エティオンと戦うものである。敵である強化人間ブリクストンを演じるのはイドリス・エルバ、服役中のショーの母マグダレンはヘレン・ミレンである。このようにものすごい豪華キャストなのだが、話は相変わらず大変ゆるく、「いや、その設定は安易すぎるのでは…」というところがいっぱいある。そもそもショーはなんでここにいるんだよ、お前主要登場人物のハンを殺した悪キャラだっただろ…というところからツッコミどころ満載だ。

 しかしながら、最初のスプリットスクリーンでロンドンのショーとロサンゼルスのホブズが大暴れするところを見せる場面から、この2人の喧嘩しながら仲のいい描写がとても楽しく、見ていてイヤな感じのしない映画だ。この2人のいがみあいは、なんだか昔のスクリューボールコメディを見ているようである。そして最後は怒濤のファミリー映画展開(?)となり、ロック様がサモアの故郷に帰って、一族を率いて大活躍する。たしかにおばかな映画なのだが、ハリウッド大作としては『モアナと伝説の海』以来の南太平洋の文化をちゃんと描いた映画なのかもしれない。

 シェイクスピアリアンとして面白いのは、この映画ではロック様が非常にヘンリー五世風の役どころを演じているということだ。ホブズはサモアで家族とうまくいかなくなり、ロサンゼルスに引っ越して暮らしている、いわばハル王子的な放蕩息子である。この映画ではそんなホブズが故郷に帰って家族と向き合い、一族を率いて戦い、決戦の時にはサモア語で「兄弟」に呼びかけるアジンコート風の演説までする。これだけでシェイクスピアリアンには見る価値がある。