ホンモノの法廷みたいなホールで行われるリアルな上演~『検察側の証人』(ネタバレ注意)

 アガサ・クリスティの『検察側の証人』を見てきた。これは次の学期に三田のクラスで読むことになっているので、楽しみにしていたものだ。

www.witnesscountyhall.com

 もとは短編小説なのだが、戯曲は本格的な法廷ものになっている。貧しい若者レナードが知り合いの中年女性エミリーを殺害した疑惑をかけられ、それまでは夫に献身的な愛情深い妻だったはずのロメインが急に検察に有利な証言をし始める様子を弁護士たちが調査する…という物語だ。クリスティらしくかなりのどんでん返しがあり、ネタバレ注意な作品である。

 このプロダクションのポイントは、ふつうの劇場ではなくロンドンカウンティホールを使っていることだ。1920年代に作られた建物で、長年ロンドン市議会など市の機関が使っていた。議会や公聴会などを開くことを想定して設計した場所なので作りが非常に公的機関っぽく、このプロダクションはそこをうまく使っていてまるでホンモノの法廷で裁判を見ているみたいなリアルさを醸し出している。冒頭の弁護士事務所の場面はちょっとたるかったのだが、法廷場面になると俄然面白くなる。議長席と思われるところに判事が座り、脇には陪審員席に見たてた12人用の席もあって、お客さんがそこに座って陪審員をつとめるという客いじりもある。証人を呼ぶ時は脇にあるドアから係員に誘導されて入ってくるという演出で、このあたりの細かい動きも本当の法廷みたいである。

 

 他の演出上のポイントとしては、プロローグとしてレナードの悪夢が実際に舞台上で演じられるところや、弁護士たちが証拠をとある登場人物からもらうところでは舞台がほぼ真っ暗だということがある。この舞台を真っ暗にするのはちょっとズルい…というか、戯曲を読んだことがある者としてはややアンフェアな感じがしたのだが、そのへんは舞台の制約上仕方ないのかもしれない。

 

 なお、議会を開く場所の公聴席が客席になるということで、椅子が非常に良くない…というか、座るところが少なくて背もたれがまっすぐな椅子で、正直2時間以上ある芝居を見る椅子ではなく、見た後はかなり疲れた(隣の人も「椅子がアップライトすぎる」と文句を言ってた)。あと、面白いのはお客さんの人種がかなり多様で、話しぶりからするとふだんお芝居をよく見に来ているわけじゃなさそうな人も多いということだ。アガサ・クリスティは人種や背景を超えて人気がある作家なんだなと思った。