とても面白かったが、手話を導入する場合の劇場の構造について考えさせられた~グローブ座『お気に召すまま』

 グローブ座でフェデリー・ホームズとエル・ホワイト演出の『お気に召すまま』を見てきた。2018年の上演の再演である。

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 シンプルなセットとやや現代風な衣装を使った上演だが、ポイントはキャスティングである。クロスジェンダーキャスティングで、ロザリンドはかなり背の高い男優(ジャック・ラスキー)、オーランドは小柄な女優(ベトリス・ジョーンズ)が演じている。この身長差キャスティングのせいで、レスリングの試合の場面では、挑戦者のオーランドがあまりにも小さいのでロザリンドがかなり深刻に心配しており、気の毒に思っているうちに逆転でオーランドが勝ったためロザリンドがすっかり心を奪われて…というのがよくわかる。大きくて一見しっかりした感じのロザリンドが恋でそわそわしているあたりのギャップも大変可愛らしい。好き嫌いが分かれそうだが、笑いのツボをおさえた祝祭的な雰囲気の上演で、私は大変気に行った。

 このプロダクションではBSL(イギリス手話)を使う役者が2人出演している。シーリアはナディア・ナダラジャが演じているが、この女優さんは2012年にグローブで前編イギリス手話により上演された『恋の骨折り損』にも出演していて、実力のある女優である。さらにジェイクイズは女性で手話と音声の台詞を両方使うソフィ・ストーンが演じている。手話には字幕がつかず、ロザリンドは手話を全部理解している設定で自分でもシーリアと話す時は手話を使ったり、通訳したりする。ナダラジャはかなり活動的なシーリア、ジェイクイズは相変わらずの憂鬱男で演技はとても良かったのだが、ちょっと気付いたのは、グローブ座は場所によっては手話の会話が全然見えないということだ。柱の陰に入るといろんなものが見えなくなるというのはグローブ座の特徴のひとつで、それを使った演出も存在するのだが(たとえば『終わりよければすべてよし』でラフューがヘレナと貴族たちの求婚についてあまり状況を把握してないみたいな台詞を言うのは、柱の陰からチラチラ見ていてよくわからないという演出なのではとも言われている)、今回私が座った席は柱が目の前にある席で(けっこう混んでた)、ジェイクイズやシーリアが柱の陰に入ってしまうと話しているのかどうかもわからないのである。以前に『恋の骨折り損』を見た時は視界を遮るもののない席だったのでよくわからなかったのだが、この柱がある舞台だと手話が見づらくなるというのは一種の劇場構造の音響上の問題と言えるかもしれない。そのへんについて研究とかあったりするのだろうか。