田舎あるある歴史もの~The Best of Enemies (ネタバレあり)

 飛行機内でThe Best of Enemies を見た。タラジ・P・ヘンソンサム・ロックウェルが、それぞれ実在する公民権運動家アン・アトウォーターとKKK支部長でのちに労働運動家になったC・P・エリスを演じるという作品である。実話をもとにしている。

 1971年にノースカロライナ州ダラムで、黒人学校の火事をきっかけに学校の人種統合が提案されることになり、当局は「シャレット」、つまり市民を集めて短期間で集中的に行う議論セッションシリーズの専門家であるビルにシャレットのオーガナイズを依頼する。公民権運動家アンとKKK支部長であるCPも参加することになる。いろいろ問題はありつつも、アンとCPが少しずつ相互理解を深めていく一方、地元のKKKメンバーはシャレットの評議員に選ばれたリベラルな白人メンバーに脅迫をかけはじめ…

 非常に地味な作品で、もう少しアンとCPの関係を丁寧に描いたほうがよかったのではという気もするが、全体的にはヘンソンとロックウェルの演技のおかげで非常に興味深く見ることができた。この映画の面白いところは、人種差別が激しいアメリカの田舎が舞台でありながら、日本の田舎でもふつうにありそうなあるある話を描いていることだ。CPはKKKのトップでヤバい人なのだが、ガソリンスタンドを経営しており、KKKに入ったのも地元の人たちのためにいろいろなことをしたいという動機からで、コミュニティでは真面目で信頼できる人として尊敬されている。日本でも田舎に行くとこういう政治的にヤバいけど近所づきあいがしっかりしてるとかちゃんとした店をやってるとかいう人が力を持っていたりするので、アメリカだからこうなんだというわけではない。KKKが妻を搾取していた『ブラック・クランズマン』に比べると、CPの妻メアリ(アン・ヘイシュ)がわりと夫の活動に冷ややかで人種差別よりはご近所付き合いを重視していたり、評議員に選ばれた人たちがKKKから説得工作を受け、さらに脅迫までされるあたりもいかにも田舎である。昔のアメリカの話だが、住民が教育政策をめぐってモメて脅迫や工作が起こるなんで、どこの田舎でもありそうな話だ。

 

 一方、アンがCPを助けてやる理由をもう少しちゃんと描いたほうがいいと思った。CPにはダウン症の息子がいて近くの療育施設に入っているのだが、CPの一家はちゃんとした福祉を受けられておらず、息子は知らない人がいるとパニックになるにもかかわらず、2人部屋に入れられてしまう。これを知ったアンが今までの公民権運動家としてのコネを使って息子を1人部屋に移してやるのだが、アンがそういうことをした動機はほのめかされる程度であまりしっかり描かれていない。ここはもうちょっとアンの行動や考えをじっくり描いたほうが、黒人が白人に何の理由もないのに優しくしてあげるみたいな印象が薄れるので、そのほうが良かったのではと思う。この1件や、KKKによる評議員への強引な働きかけをきっかけに、CPはKKKの活動よりも公民権運動みたいなスタイルのもののほうが地元の労働者の利益になるのではと思い始め、最後は人種統合に投票することになる。これが実話だというのだからちょっと驚きだ。