非常にちゃんとした映画だが…『荒野の誓い』

 『荒野の誓い』を見てきた。

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 舞台は1892年のアメリカ西部である。歴戦の勇士である騎兵隊の大尉ジョー(クリスチャン・ベール)は、かつての宿敵で今は癌にかかっているシャイアンの首長イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)をモンタナの故郷に送り届ける任務を遂行することになる。途中でコマンチの襲撃により家族を皆殺しされたロザリー(ロザムンド・パイク)も一隊に加わることになるが、旅路はあまりにも危険で…

 

 対立した者同士がともに旅をすることを通してさまざまなことを学ぶという王道的な話で、先住民を虐殺する側だったジョーをはじめとして、一行がどんどん暴力に幻滅し、和解に希望を見いだそうとするようになる過程を丁寧に描いた作品である。ちょっと『駅馬車』に似ているが、途中で駅馬車が財政難で廃止されたという話が出てきており、かなり設定がシビアだ。演技のほうは主演のベールとパイクをはじめとして達者な役者をそろえており、ティモシー・シャラメがフランス語を話す若い兵士の役でちょっとだけ出てきてあっけなく死亡する。なお、キャストの大部分が男性なのにベクデル・テストは最初の5分くらいでクリアするという珍しい映画である。

 

 全体として非常にちゃんとした映画だし、先住民をバカにしているとかではないのだが、いまだにこの手の映画は白人スターを主演にしないとハリウッドでは作れないのあかなぁ…という気はした。ベールやパイクの仕事ぶりは素晴らしいのだが、先住民の俳優であるステューディは良い役ではあるものの明らかにこの2人よりは台詞が少ない。去年見た『ウインド・リバー』(これもとても良い映画ではあったのだが)とかでも思ったのだが、先住民の役者を主演にして先住民視点で…っていう映画ではない。『荒野の誓い』や『ウインド・リバー』に責任があるわけではないのだが、先住民の役者が主演の映画を大きな予算規模でもっと作るべきだと思う。

 

 あと、かなりひっかかったのが性暴力の描き方だ。『荒野の誓い』も『ウインド・リバー』も先住民の女性が性暴力にあってその後死亡する(『荒野の誓い』は性暴力が原因で死ぬわけではないが)。アメリカではそういうひどいことが野放しだというのを描きたいのはわかるが、もうちょっと違う表現が必要とされていると思う。さらに、まだほとんど子どもと言っていい年齢なのに戦士としてクズ男どもと戦って死んだナタリーの遺志を継いで主人公が復讐をしようとする様子を描いている『ウインド・リバー』に比べると、『荒野の誓い』は性暴力の描き方がかなりいい加減だ。毛皮ハンターが突然、白人のロザリーを含めた女たちを全員拉致してどうやら強姦したらしいことがほのめかされるのだが、あれだけ勇ましい女たちなのに戦おうとする様子などは描かれていないし、さらにロザリーはすぐに立ち直ってジョーとデキてしまうのである。全体的に毛皮ハンターによる襲撃のシークエンスはちょっとだらだらして単なる蛇足みたいな感じで無いほうがいいんじゃないかと思った。