ピンターか、シェーファーか?~舞台劇みたいな映画『サラブレッド』(ネタバレあり)

 『サラブレッド』を見てきた。お金持ちの令嬢だが継父とうまくいっていないリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)が、無感動でタフなアマンダ(オリヴィア・クック)と親しくなり、ドラッグの売人で未成年女子にちょっかいを出すのが好きなティム(アントン・イェルチン)を引き込んで継父殺害を企むというスリラーである。

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 PJの『乙女の祈り』やピーター・シェーファーの戯曲『エクウス EQUUS(馬)』なんかを下敷きにしているんだろうな…という感じのスリラーなのだが、一方で話のクライマックスを少女ふたりの感情的な絆に落とし込むよりは、アマンダが感情のないサイコパス的な少女であるということが逆に自己犠牲につながるというオチにしているのが面白い。実は感情が無いのはアマンダじゃなくて、一見感情的なリリーなのでは…?と思われるところがある。ベクデル・テストはこの2人の勉強に関する会話でパスする。

 

 ただ、全体的には映画的な展開の面白さよりは、テイラー=ジョイ、クック、イェルチンの演技を見る映画だなという印象を受けた。けっこう密室的で、舞台劇みたいである。アマンダがやたらと他人の会話の裏を読みたがるところはハロルド・ピンターみたいだし、愛憎入り交じった人間関係の描き方なんかは上にあげたピーター・シェーファーっぽさもある。会話をじっくり撮るところとか、最後の血まみれのヒロイン2人がソファに横になる場面でその後の経過の詳しい描写がないところとか、手紙で締めるやり方とかはまるでお芝居みたいだ。そんなことを思いながら見ていたら、監督のコリー・フィンリーは劇作家で、ピンターの影響を受けており、これが映画デビュー作らしい。最近見た映画の中では、マーティン・マクドナーの次くらいにスタイルが演劇的だと思う。これからどういうものを撮るのか楽しみだ。

 

 ↓あと、見ていてちょっとこの本を思い出した。補助線になるかもしれない。

サイコパスを探せ! : 「狂気」をめぐる冒険
ジョン・ロンソン
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