労働運動とフェミニズムを掘り下げた歴史もの~『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(ネタバレあり)

 『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』を見てきた。アメリカと日本の合作で、19世紀にマサチューセッツ州ローウェルの繊維工場で働いていた女性たち(ローウェル・ミル・ガールズ)の活動を描いた歴史ものミュージカルである。かなり脚色があるにせよ、実在の人物を登場させており、史実をもとにしている。 

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 お話は枠に入っており、語り手であるローウェル出身の作家ルーシーが、過去に出会った尊敬すべき女性たちを回想する、という形になっている。ヒロインのサラ(柚希礼音)は好きになれない相手との結婚を避け、故郷の農場を出て工場に働きにやってきた。そこで女子工員による文芸誌『ローウェル・オファリング』を編集しているハリエット(ソニン)と出会い、物書きの才能を開花させる。ところが工場と女子工員たちの間で労働条件をめぐる諍いが持ち上がり、労働運動家として活動しはじめたサラと、雑誌を守りたいハリエットの間に軋轢が…

 

 女子労働が女性に自分の自由になるお金や自己実現、それまでは出会えなかったような女性たちとの出会いをもたらしてくれたというポジティヴな面をしっかり描く一方、女性が市場で搾取されやすいということも明確に描いていて、一面的ではない深みのある作品だ。基本的には不屈の闘志を持って戦うサラの決断を肯定的に描いている一方、それなりに理想はあるのだが版元である工場に縛り付けられて悩むハリエットについても悪役ではなく、非常に人間味と奥行きのある人物として提示している。最後にサラとハリエットがふたりとも工場から追い出されて和解するあたり、「女の敵は女」みたいな構図は女性や労働者を分断しようとする人たちが作り出すニセの問題なんだ…ということをさりげなく提示していると思う。さらにこの2人に影響されてルーシーが作家になったということで、この作品は女性から女性への文化の継承をも描いている。全体的にとてもフェミニスト的なミュージカルだ。

 

 ただ、お話は非常に面白かったのだが、ちょっと日本語の台本・演出に練られていないところがあった気がする。作曲・作詞はアメリカから、脚本・演出は日本からという形で作った作品なのだが、かなり大事な情報をかなり短く、しかもそんなにわかりやすくはない台詞でさらっと提示して、お客さんが「えっ!?」と思っているうちに前に進んでしまう、みたいなところが何度もあった。ハリエットの過去や資本家たちが女子工員に対して行っていた企みなどの説明は「いや、そこもうちょっと詳しく書き込まないとダメでは?」と思ったし、最後の「10時間労働の権利を放棄するかわりに工場に残っていい」とかなんとかいう台詞は、私の聞き間違えでなければ工場側がとんでもなく問題ある行為をしているように聞こえたのだが、それ以上の批判もなく流れていってしまうのでちょっと煙に巻かれたような気分になってしまった。かなりよい役者を揃えているんだから、少し工夫すればあまり説明的にならずに台詞でいろんなことを表現できるはずで、大事な情報はもっと丁寧に提示したほうがいいと思う。