すごくよくできた芝居だが、好みかというと…新国立『どん底』

 新国立劇場で『どん底』を見てきた。マクシム・ゴーリキーの有名作だが、見たのはこれが初めてである。

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 簡易宿泊所みたいな宿屋を舞台にロシアの貧しい人々を描いた群像劇で、あまりはっきりした物語があるわけではなく、いろいろと救いのない挿話が展開される。非常にリアルに貧しい人々の苦労や束の間の希望を描いているのだが、絶望的な貧困からは出口がない。格差のひどい今の時代に大変ふさわしい物語である。

 

 戯曲はさすがに古典という感じだし、演出や演技にも文句はないのだが、たぶん完全に私の趣味であんまり好きじゃないかなーということがあった。役者が集まってゲリラ的に工事現場みたいなところで『どん底』を稽古するという枠があるのだが、正直、こういうものすごくリアルな芝居でこの枠は要るのかな…という気がしたのである。こういう枠を作ると、なんだかんだで「役者がやってる劇中劇です」という印象を受けるので、リアリズムまっしぐらにならないように思う。このなんとなくピンとこない感じは、私はとくにリアリズムの芝居について好き嫌いが激しいたちだからということが原因にあると思うので、こういう演出が好きな人はとてもはまるだろうと思うのだが、私の好みではなかった。