力のある作品ではあるのだろうが、好みが…オーガスト・ウィルソン『フェンス』

 フォード劇場でオーガスト・ウィルソン『フェンス』を見てきた。ウィルソンのピッツバーグ・サイクルの一作である。大変有名な作品で映画化もされているのだが、私は見るのは初めてである。

 主人公のトロイ(クレイグ・ウォレス)はもともとは強盗で人を殺して刑務所に入っていたという過去を持っているが、一方ではニグロリーグで活動する優秀な野球選手でもあった。人種隔離と年齢でメジャーリーグには入れず、年をとった今ではゴミ収集の仕事をしている。息子のコリーは優秀なアメフト選手で奨学金をもらって大学に行けそうになるが、トロイは人種差別を恐れてこれを禁じる。怒ったコリーは家を出て軍隊に入る。さらにトロイには愛人がおり、お産でこの愛人が死んでしまったため、トロイは妻ローズのもとに赤ん坊を連れて帰るが…

 とても力のある作品だということは分かるのだが、どうも私は好きになれなかった。この作品はいわゆる「有害な男らしさ」をそのまんま描いたような芝居だ。トロイは言い訳ばかりしているし、息子や妻に対しては極めて横暴だ。この作品がそういうトロイの欠点を美化していないということは見ていてわかるのだが、一方で最後の葬儀の場面、とくにローズがコリーに対して夫をかばってやるところや、空から光が指してくるところでは、このトロイの欠点だらけの性格がちょっと許されすぎているというか、あまり問題化されずに終わっているような印象を受けた。そりゃあトロイにも可哀想なところはあるのだろうが、そうは言っても途中の言動がひどすぎて、終わり方がぬるすぎると思う。

 

 ただ、ワシントンDCのお客さんは大変ノリが良く、笑うところではしっかり笑うし、ローズがトロイに対して怒るところでは応援が飛ぶなど、そのへんはとても面白い観劇体験だった。やっぱりみんなトロイの態度はひどいと思ってるんだな…