水の無言劇~シネティック・シアター『テンペスト』

 ワシントンDCのシネティック・シアターで『テンペスト』を見てきた。シネティック・シアターはフィジカルシアターの劇団である。この演目もシェイクスピアの芝居をそのままやるのではなく、台詞が一切なく全てが動きで表現される。舞台上には水が張られていて浅瀬のプールみたいになっており、後ろに岩屋、右側には水が出るキーボードのセットがある。そこで登場人物が踊ったりマイムのような動きをしたりして話を伝えるというものだ。

 

 90分のプロダクションなのだが、プロスペラ(女性になっており、女優で振付家のイリナ・チクリシュヴィリが演じている)が島に到着するところから始まる。赤子を抱いたプロスペラはシコラクスと思しき地元の魔女に襲撃され、戦って殺してしまい、エアリアルを解放する。劇中では描かれていないキャリバンがミランダをレイプしようとするくだりも描かれているのだが、ここがなかなか重く、キャリバンとミランダは最初は幼友達としてとても親しくしていたのだが、キャリバンがミランダに思いを打ち明けたところ拒まれ、逆上したキャリバンがミランダに襲いかかるという、まるで高校生のデートレイプ未遂みたいなリアルな描写になっている。すんでのところで気付いたプロスペラがミランダを助けてキャリバンは監禁される。その後はたいだい『テンペスト』のお話通りなのだが、かなり省略があり、ゴンザーローは出てこないし、プロスペラから公位を奪ったきょうだいは弟(アントニオ)ではなく妹(アントニア)になっている。トリンキュローも女性になっている。

 

 動きだけでいろいろなものを伝える野心的なプロダクションで、プロスペラが打ちひしがれた母親から強い魔女になるまでがしっかり描かれているし、ミランダとファーディナンドも恋なども微笑ましい。水や光をうまく使っており、水が出るキーボードなどはいかにも魔法の島にふさわしく、技術的にもいろいろな工夫がある。言語がなくてもわかる演目なので、日本に呼んだらいいのでは…と思った。