学校演劇をする予算すらもらえない演劇好き高校生たちの奮闘を描いた青春もの~『マイ・ビューティフル・デイズ』(ネタバレあり)

 『マイ・ビューティフル・デイズ』を見てきた。カリフォルニアの高校で演劇をしている生徒たちと教員を描いた青春ものである。

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 主人公であるスティーヴンズ先生(リリー・レーブ)は、独白コンテストに出場する生徒たちを車で引率することになる。メンバーは優等生で仕切りが上手なマーゴ(リリ・ラインハート )、才能豊かだが精神不安定で行動障害の薬をのんでいるビリー(ティモシー・シャラメ)、ゲイで感じの良いサム(アンソニー・キンタル)の3人である。それぞれ個性的な生徒たちだが、ビリーは所謂スクールボーイクラッシュでスティーヴンズ先生に夢中である。若くて不慣れなところもあるスティーヴンズ先生のもとで、はたしてコンテストは無事に終わるのか…

 

 これ、私は勘違いしていて高校演劇部の話だと思って見に行ったのだが、演劇部どころか、芸術予算がカットされたせいで学校演劇ができなくなり、演劇が好きな生徒は個別で独白コンテストに出るしかないという切羽詰まった高校の話である。最初はわりと楽しくコンテストに向かうのだが、途中で実は学校から全く遠征費用が出ていなかったということがわかるというシビアな展開になる。この崖っぷち状況をスポ根ふうにならずにさらっと流して淡々と描いているところが面白い。それぞれの生徒たちも、演劇が好きではあるのだがそれだけに打ち込んで…というわけではなく、他に恋愛やらなんやらもっといろいろ気になることがあるという描き方で、根底に舞台好きがありつつも熱血部活映画になっていないところがかえって私としては面白かった。なお、私は高校で部活をやってなかったのだが(大学でもサークルはやってない)、この映画に出てくる生徒たちくらいのコミットメント感で図書委員をやっており、大会に行くときに予算が出ないかもとかいうことが問題になって焦ったことがあるので、なかなか途中の展開が他人事と思えなかった。

 

 基本的にはスティーヴンズ先生が主人公で、いろいろ人生のトラブルを抱えつつも、自分に夢中のビリーに対して大人かつ教員として非常に真面目に向き合い、大人は子供に頼ってはいけない、子供が大人に頼るものだということをきちんと示そうとする様子を丁寧に描いている。生徒3人もいろいろ重要な見せ場がある。マーゴはコンテストの予選で『欲望という名の電車』のブランチの台詞を言うことになっているのだが、最初の数行で頭が真っ白になって全部台詞が吹っ飛んでしまうという悪夢みたいな状況が訪れる(ここが実にリアルな感じで描かれている)。なお、ベクデル・テストはマーゴと先生の会話でパスする。ティモシー・シャラメはさすがに凄くて(『君の名前で僕を呼んで』の前の出演作らしい)、ビリーが『セールスマンの死』の独白をするところは本当に素晴らしいと思った(あれで2位って、1位はいったい…)。ひとつ不満だったのはサムがコンテストで独白する場面がなかったことで、サムについてはもっと時間を割いて描いてもよいのにと思った。