青鞜社を描いた時代もの、ただし完全に「現代」のお話~『私たちは何も知らない』

 永井愛の新作『私たちは何も知らない』を見てきた。

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 平塚らいてう(朝倉あき)をはじめとする青鞜社の女性たちを主人公にした作品である。らいてうは非常にカリスマがあり、尾竹紅吉(夏子)や伊藤野枝(藤野涼子)をはじめとする人々をまるでスターのように惹きつけるのだが、青鞜社を続けるうちに人間関係のもつれや編集作業の大変さでいろいろトラブルも起き…という物語である。

 

 台本は大変よくできており、らいてうと紅吉の同性愛などもわりとはっきり書いてあるし、当時のフェミニストたちの間の考えの違いなどがあまり堅苦しくなくわかりやすく描かれている。雑誌の編集作業の大変さをしっかり見せているところもよく、非常にちゃんとした文芸舞台裏ものでもある。最初はひどく叩かれていた青鞜社が目指したことが少しずつ世間に浸透していく一方、『青鞜』の売り上げはあまり芳しくなくなり、編集も大変になって…というようなプロセスを丁寧に見せているあたりもいい。

 

 時代劇なのだが登場人物は皆現代風の衣装を着て出てきており、完全に現代に通じる女性運動の話として演出されている。青鞜社の女性たちがやっていた戦いは、今ここで女性たちが行っているフェミニズムの戦いと完全につながっており、我々は先達のしたことを引き継いでいるのだ、という含みが台本からも衣装からも読み取れるようになっている。時代ものを現代の衣装でやるというのはシェイクスピア劇などの古典ではよくある手法だが、新作では珍しいやり方で、この作品では非常に効果をあげていると思った。斜めの空間を使ったセットなどもしゃれていて、絵の額縁みたいなものを使っていろいろな女性たちの声を紹介するところなども気が利いている。ただ、台詞回しについてはかなり改善の余地があると思った。全体的に台詞が噛み気味で、噛まないように注意しているのかちょっともたついているところもあった。雑誌の編集の場面や、次々と刊行される雑誌の話をする場面などは、かなり台詞をスピードアップさせ、ちょっと尺を短くしてもいいのではという気がした。