これを書いている本人は明日起きたらシスになってるかもしれない~『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(大ネタバレあり)

 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を見た。これからものすごくネタバレするのと、私は本気で怒っているので、注意してほしい(読まないほうがいいかもしれない)。このレビューは批評家としてではなく、ファンとして書いているものである。あと、ふだんは簡単にあらすじを書くところから始めるのだが、今回は公開直後なのであらすじは書かないで始めることにする。

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 私は高校生の時から『スター・ウォーズ』が大好きで、わりと寛大なファンのつもりである。賛否両論の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』もかなり支持している。なぜならちゃんと新しいことをやろうとしていたからだ。昔のやり方にすがっているだけでは、作品は生き延びることはできない。

 

 しかしながら『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、とにかく許せない。芝居とか映画を見てこれだけ怒りがわいてきたのは紀里谷和明演出の『ハムレット』を見て以来くらいである。ただ、これはかなり好みの問題なので、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を見て面白いと思う人がたくさんいるのは理解できるし、そういう意見に反対しようというものではない。しかしながら私はものすごく怒っているので、明日起きたらシスになっている可能性すらある。ツッコミたいポイントは山ほどあるが、決定的に許せないのは1点である。

 

 まずは小さいほうのツッコミポイントからいくが、とりあえず脚本はかなり雑だ。この雑脚本の被害を一番くらっているのがたぶんフィンで、なんか突如ドジっ子のオタサーの姫みたいなキャラになっている。フィンがチューイの乗った船を間違えたの、あれはいくらなんでも不注意すぎると思う。それからフィンが異常にモテている。前作で活躍したローズの出番はやたら少なくなっているのだが、でもまだローズはフィンが好きらしいし、それは完全に置いておいてフィンは元ストームトルーパーのジャナと出会ってなんだかいい感じになっていた。それでもどうやらフィン自身はまだレイが好きみたいで、一方ポーはレイとフィンの間がどうなっているのかやたら気をもんでいる。このオタサーの姫化したフィンの恋模様は全て宙ぶらりんで終わっており、脚本はフィンの愛情生活の平穏はどうでもいいようである。

 ただ、フィン以外にも「それちょっと御都合主義すぎでは?」みたいなところはいくつかある。隠遁してたはずのルークがいつのまにかランドとシスの持ち物捜索隊をやってたとかいう過去が突然明かされ、音沙汰のなかったランドが急に登場する。C-3POの記憶がなくなる関係のドタバタもいい加減に解決されてしまうので、あんなにみんな悩んでいたのは何だったのだ、もっとR2-D2のメモリを信用しろよ…と思ってしまった。あと、レイアは亡くなる前にポーをacting general(将軍代行)にしたらしいのだが、レイアがポーだけにこんな大任を委任するかなーと思う。ポーは超有能で実戦ではめちゃめちゃ機転が利くが、むら気で頑固なところがあるのはレイアをはじめとしてみんな理解しているはずで、レイアくらい優秀なリーダーなら、死ぬ前に経験豊かなチューイとか信頼できるフィンとかを将軍代行の補佐としてどう配置するかも考えて遺言するのじゃないかと思う。

 

 しかしながら私がとにかくイヤなのは、レイとカイロ・レン/ベン・ソロまわりである。前作でレイはとくに何かフォースで有名な家系の子孫ではないということになっていたはずなのに、なぜかパルパティーンの孫だったとかいう話になる。パルパティーンに家族がいるとかいう話は全然聞いたことがないのだが、唐突だという以外に、これでは「なんだ結局フォースは血筋かよ!!」という話になってしまう。しかもパルパティーンの孫のレイとダース・ヴェイダーの孫のカイロ・レン/ベン・ソロがフォースの一対だって、それ親からの遺伝で才能を持っている高貴な男女が運命でつながっているというなんかもう優生学みたいな話じゃないか…結局血筋か。我々凡人にフォースは無いのか。無いんだな。

 さらにこのへんは展開が相当に散らかっていると思う。パルパティーンを殺せばレイがシスになってしまうなどという葛藤がひとくさりあった後、結局レイとの対決でパルパティーンが死んでしまい、さっきの葛藤は何だったんだ…という感じになる。一応、厳密に言うとレイがパルパティーンを殺したことにならないという理屈はつけてあるのだが、それにしたってずいぶん強引だ。さらにカイロ・レン/ベン・ソロがパルパティーンとの対決で死亡したレイをフォースで生き返らせるという展開があるのだが、これまでシリーズでさんざんヤバい力扱いされていた死人を生き返らせる力がここでこんなにポジティヴに出てきていいのか…と思う。

 

 そして最後の一番許せないポイントは、レイとベン・ソロに戻ったカイロ・レンがキスしたことである。レイとカイロ・レンはレイロというカップリング名があるくらいでファンダムですごく人気がある(これが今のSWで一番デカいカップリングではないかと思うのだが、私はストームパイロットガチ勢であるので支持しない)。中盤くらいから「この映画はあまりにもファンに媚びすぎているのでは…?」とちょっと不安になってきていたのだが、レイとカイロ・レン/ベン・ソロがキスした時、私はもうダメだと思った。恩人ハン・ソロを殺し、自分に対して常にダークサイドに来いとハラスメントしていたカイロ・レンをレイが愛するというのは脚本として強引すぎで、女性でありジェダイであるレイの自立心あふれるキャラクターアークを破壊していると思う。まあ、やっぱり血筋で惹かれ合ってしまったのかもしれないが、そうだとしたら興ざめである。そして、この2人が何かすごく強烈な愛憎を抱えているというのはいいとしても、それで2人にベタベタ触らせたりキスさせたりする必要はまったくないはずだ。『パシフィック・リム』の最後でギレルモ・デル・トロはローリーとマコにキスさせなかったが、それでデル・トロはこの2人の間にある複雑な情熱を完全に表現していたではないか。J・J・エイブラムスは、複雑な情熱を表現するのにキスさせる以外のやり方が思いつかないのだろうか。いや、たぶんそうなんだろうな…

 

 全体的に、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、なんかもう新しいものを作るつもりがないスタッフがノスタルジーを爆発させ、ファンダムに燃料を供給することだけを考えて作っているような作品だったと思う。全体的に、悪い意味でものすごくオタクっぽい作品である。なんというか、エドガー・ライトとかギレルモ・デル・トロの映画もオタクっぽいが、ああいう作品群にある映画オタクっぽい考え方を一度相対化した結果みたいなものが一切、ない。

 

 ただ、いいところはたくさんある。とりあえずアダム・ドライヴァーの演技は凄くて、カイロ・レンからベン・ソロに戻るあたりの表情や立ち居振る舞いの繊細な表現はさすがだ。ポーとフィンがやりあうところもストームパイロットガチ勢としてはとても愉快である。ドーナル・グリーソン演じるハックス将軍が職場で苦労しているところとか、リチャード・E・グラント演じるプライドのイヤな感じとかもいい。ランドはおじちゃまになっても銀河一の色男である。でも私は許さん。