モジョのお父さんは何をしてるの?~『モジョミキボー』(ネタバレあり)

 オーウェン・マカファーティ作、鵜山仁演出『モジョミキボー』を見てきた。浅野雅博と石橋徹郎がたくさんの役を演じ分ける2人芝居である。

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 舞台は1970年のベルファストである。モジョはプロテスタント、ミキボーはカトリックの家庭の子供だが、悪ガキ同士、2人は親しくなる。『明日に向かって撃て!』に夢中でブッチとサンダンスを気取る2人だが、ベルファスト北アイルランド問題の情勢悪化でどんどん緊張が高まっており…

 

 真ん中に緑(ケルトを示す)とオレンジ(プロテスタントであるオレンジ公の色)と白(平和を示す)に塗り分けられたポールがあり(これはアイルランド共和国旗の色で、劇中でも説明されている)、セットもだいたいこの3色が基調になっている。ガラクタっぽいものがいろいろ散らばっているセットで、モジョやミキボーの家、2人の隠れ家、映画館、パブなど、見立てによりいろんな場所が表現される。

 子供2人が90分間、罵詈讒謗を吐きながらイタズラしまくる芝居なのだが、主演の2人の熱演とツボを心得た演出で、スピード感がある芝居になっている。おそらくミドルクラスと思われるモジョの家と、飲んだくれの父親とそれを今でもひたすら愛している母親がいるワーキングクラスのミキボーの家が対比されており、階級も宗派も違う子供同士が親友になるものの、戦いによって引き裂かれてしまうまでが哀切に描かれている。

 ひとつよくわからなかったのは、モジョのお父さんは何をしているのか、ということだ。モジョのお父さんは毎晩「ダンス」に出かけているのだが、お母さんはお父さんの行動が気に入らず、息子を連れて出て行ってしまう。こういう場合、芝居ではたいてい登場人物は自分で公言している場所に出かけていない(『ガラスの動物園』エントリを参照)。さらにお父さんがモジョを連れて出かける場面でもなんだかお父さんはあやしい振る舞いをしている。ふつうなら「よくわからない場所に出かけている」「お母さんが怒っている」という手がかりからすると浮気をしていて妻ではない女性あるいは男性と会っているという解釈が多いと思うのだが、問題はこれが北アイルランド問題についての芝居であることだ。モジョの家はプロテスタントなので、お父さんはユニオニスト系の民兵組織に入っていて、浮気よりはるかにヤバいことに巻き込まれている可能性がある。そう考えると、最後に家がテロの被害にあったミキボーがモジョと決別する場面がさらにショッキングになるのだが、このあたりはちょっとどっちなのか確実に判断できなかった。個人的には民兵組織なのでは…とは思っている。