あまり史実には準拠していない~『2人のローマ教皇』

 フェルナンド・メイレレス監督『2人のローマ教皇』を見た。ベネディクト16世(アンソニー・ホプキンズ)とホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(のちのフランシスコ教皇ジョナサン・プライス)が、ベネディクト退位前に会って話した内容を描く映画である。なお、私の知り合い(歴史家が多い)だとほとんどの人はこのタイトルで対立教皇の映画だと思うようなので、もうちょっと副題とかをつけたほうがいい…のかもしれない。

www.youtube.com

 実在の人物を描いた作品なのだが、実は史実にはあんまり基づいていない。ベネディクト16世とベルゴリオ枢機卿が会ったのは実際にはベネディクト退位後のことなので、この映画で描かれたような会談はなかったらしい。最後にある、大変楽しいサッカー観戦の場面なども史実ではないそうだ。

 原作は舞台劇だそうだが、たしかに2人の会話をじっくり見せるみたいな作品で、かなり舞台っぽい。しかしながら回想シーンが入ったり、散歩の場面では主役の2人が外を歩いたりするせいでわりと映画らしい視覚的要素も盛り込まれている。これはメイレレスの趣味だと思うのだが、手持ちカメラ撮影が多いのはかなり好みが分かれる…というか、私はあまり好きではないものの、一定の効果はあげていると思った。

 とにかく主演の2人の演技を見るためのような映画である。メイレレスは実際のベネディクト16世よりもアンソニー・ホプキンズが映画で演じたベネディクト16世のほうが魅力的だと言っているのだが、たしかにそういうところがあり、この映画に登場するベネディクトは厳格で頑固そうな雰囲気がある一方、深い学識とカリスマを備えた存在になっている。ジョナサン・プライス演じるベルゴリオ枢機卿は雰囲気が非常に実際のフランシスコに似ており、世間の事柄に通じた庶民的で親しみやすい人物になっている。ベネディクトは聖職者の児童性的虐待問題について激しい良心の呵責を抱えている一方、フランシスコはアルゼンチンの軍事政権下で迫害された聖職者を保護しなかったことについて良心の呵責を抱えている。保守派のベネディクトと改革派(とは言っても保守的なところもあるのだが)のベルゴリオが、考え方の違いはあっても兄弟として友愛の絆を深めるブロマンスがとても丁寧に描かれている。