「絆」ってこれだよね~『パラサイト 半地下の家族』(ネタバレあり)

 ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』を見てきた。

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 公開中なのであまりネタバレしないように設定だけ書くと、狭くてボロい半地下のアパートに住んでいる全員失業中の4人家族キム一家が、長男のギウ(チェ・ウシク)が高台のおしゃれな家に住むパク一家のもとで家庭教師を始めたのをきっかけに、パク家に全員が就職できないか画策し始めるという作品である。階級問題が主題のスリラーで、まあ一言で言うとリアル版『ハイ・ライズ』みたいな話である。

 

 人物や展開はわりとデフォルメが激しく、とくに金持ちのパク一家は記号みたいに描かれている。家庭教師としてやってきたギウに恋をするパク家の娘のダヘ(チョン・ジソ)とか妻のヨンギョ(チョ・ヨジョン)は相当にステレオタイプな描き方になっている。一方、半地下のアパートと金持ちの家の対比などはものすごくしっかり細部まで丁寧に描かれており、このせいで話が全体的にリアルに感じられるようになっている。実は私はロンドンに留学していた時、キム家ほどひどくはないがたぶん法的に問題のある半地下に住んでいたことがあるのだが、半地下というのはまさにああいう感じで、やたら湿っていて冬にはカビが生えるし、窓をあけておくとすぐナメクジとか謎の生き物が入ってくる…のだが、開けておかないと湿ってしまうので換気しないといけない。一方でパク一家が住んでいる有名な建築家が作ったオシャレな家の描き方も相当しっかりしており、これ見よがしな成金的贅沢ではない感じで、家具の使い方とか住んでいる人たちの行動から金持ち感、育ちの良さがはっきり見えるようになっている。豪雨の時に外にテントを張ってもテントが崩れないという描写からは、さりげなく金持ちぶりが染み出ていると思った(金持ちというのはとても安全なところに住んでいるからだ)。そしてこの映画ではそういう居住環境の違いに起因する階級に結びついたにおいが大きなモチーフになっているのだが、そういえばジョージ・オーウェルがまさに「労働者階級は違うにおいがする」というイギリスにおける階級差別的な固定観念の話をしていた。においというのは階級差別と密接に結びついているものである。

 

 この映画は階級差別をきわめて明確かつ辛辣に描いているという点でとても怖い映画なのだが、一方で私がこの映画を見ていて一番怖いと思ったのは、キム家が徹頭徹尾団結しており、この一家の中には一切不協和音がないことだ。あれだけ貧しい家族で失業中で狭いところで暮らしているということであればみんなストレスがたまるので、子供のひとりがグレて家を出て行ったりしても別におかしくない。また、途中から法に反したことをし始めるくだりでひとりくらい倫理的に躊躇するメンバーがいてもおかしくない…と思うのだが、この家族は一糸乱れぬ協力ぶりで、家族の絆だけはものすごく強い。ここがものすごく東アジア的な描き方だと思ったのだが、この映画においては(キム家以外のパク家もムングァン夫妻も)家族からは絶対に出られないし、家族を守るためなら皆、倫理的に問題があることであろうと何でもやるのである(アメリカ映画なら若くて魅力的なギジョンあたりが家出したりしそうだと思う)。家族の絆というのはやたら理想化されてしまうことがあるのだが、いやまあ絆ってこういう怖いものだよな、と思う。

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