正面を向いて叫ぶだけの演出はやめよう~『メアリ・スチュアート』

 シラー作、森新太郎演出『メアリ・スチュアート』を見てきた。シラーによる古典的作品で、主題としてもスコットランド女王メアリ(長谷川京子)の処刑までを、エリザベス1世(シルビア・グラブ)との関係を中心に描くという歴史ものの定番を扱っているので、とくに詳しく内容を説明する必要はないと思う。

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 いいところはたくさんある。舞台の上に奈落に降りられる階段を設置し、森の場面の木や玉座以外はあまり大きな道具類を使わないシンプルな美術が印象的な演出である。笑わせるところのツボをちゃんと押さえているのもいい。

 

 しかしながら、初日だったからなのかちょっと未完成な感じがあり、とくに登場人物がやたらと正面を向いて叫ぶ演出が多いのは辟易した。森演出の歴史物だと『エドワード2世』などにもちょっとその気があったのだが、あれは脇役だけだったのでそこまで気にならなかったんだけれども、今作では主要人物たちについてもかなりそういう演出があり、とくに終盤でエリザベスがやたら叫んだり大声でしゃべったりする。私の考えでは、この戯曲というのはあまり政治的に賢くない女(メアリ)とヤバい女(エリザベス)の物語で、それなのに2人とも観客の共感を得られるだけのしっかりした厚みあるというのが面白さだと思うのだが、エリザベスをやたら叫ばせると昔ながらのミソジニー的な「ヒステリー女」表現に近づいてしまい、人物像が薄っぺらく感じられるので非常によろしくないと思う。エリザベスはできるだけ声を荒らげない感じで演出し、最後の独白のあたりだけ感情をあらわにする、というような演出のほうがずっとメリハリが出るのじゃないかと思う。叫ばなくてもいろいろなことが表現できそうな役者陣だと思うので、もうちょっと繊細な演技を引き出せるのではと思った。

 

 あと、これは完全に初日だからだと思うのだが、照明が調整不足っぽかった。やたら暗いなーと思っていたら、急に不均等に眩しくなったりする。全体的に暗いところと明るいところのメリハリを極端につけすぎで、むしろ見づらくなっているのではないかと思った。