凄い、でもこういう芝居ばっかりだったらすごくイヤだ~『エブリ・ブリリアント・シング』

 『エブリ・ブリリアント・シング』を見てきた。イギリスで話題になった一人芝居を日本に持ってきたもので、谷賢一演出、佐藤隆太主演である。

 いわゆるイマーシブ演劇である。主人公の男は自分の好きなものをリストにしているのだが、開演直前にリストにあるものが番号と一緒に書かれたカードをお客さんに配り、主人公が番号を指定するとお客さんが読み上げるというような仕掛けがある。他の登場人物との対話が必要な場合は基本的にお客さんが頼まれて演じるようになっており、主人公の男の妻であるサムとか、主人公のお父さんとかも観客が呼ばれて指示に従いながら演じる。お客さんにものを借りて小道具として使うところもある。

 テーマは自殺とメンタルヘルスなのだが、お客さんを巻き込んで笑わせながらやるので、全然暗いお芝居ではない。そして大変楽しい…というか、台本は革新的だと思うし、演出にも演技にも全然文句は無く、とてもよくできた芝居だ。佐藤隆太のお客さんを引き込む力は凄い。

 しかしながら私がなんかこういう芝居について引っかかるのは、この「お客さんに何かやらせる」っていうところだ。非常に不愉快な言い方だが、お金を払って見に来ているお客さんからコンテンツを作るっていうのは倫理的なのだろうかとか、こういうふうにお客さんを「巻き込む」のってものすごく画一的な反応を引き出し得る手法なので危険だよなとか、イマーシブ演劇じたいに内在する問題をものすごく考えてしまった。もともと芝居なんていうのはみんなイマーシブで危険なので、舞台芸術じたいの問題だとも言えるのだが、芝居に来て座って見ている時点で既にお客さんは「巻き込まれて」いるはずなのに、さらにお客さんに何かさせようとするのってなんか「エセ能動性」みたいなものじゃないか、とかいろいろ悩んでしまう。とりあえず、この芝居じたいはよくできているし、こういう芝居があっても全然いいと思うのだが、芝居がこういうものばっかりになったら私はすごくイヤだ。