漁師バンドと地域ナショナリズム~『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』(ネタバレあり)

 『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』を見てきた。コーンウォールのポート・アイザックで漁師たちがやっていた、民謡や俗謡を歌う男声合唱団が、ひょんなことからデビューすることになり…という話である。「フィッシャーマンズ・フレンズ」は実在するグループで、一部実話に基づいているらしい。

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 主人公であるダニー(ダニエル・メイズ)はロンドンの音楽プロデューサーで、友人のバチェラーパーティのためポート・アイザックにやってきた。そこで上司のトロイ(ノエル・クラーク)にかつがれ、漁師たちの男性合唱団であるフィッシャーマンズ・フレンズと契約しろという命令を受ける。最初は全く乗り気でなかったダニーだが、漁師たちの歌の魅力にだんだんと引き込まれ、契約にこぎつける…ものの、なんとトロイはあれは冗談だとデビューを拒否する。ダニーは単身、漁師バンドのメジャーデビューのため奮闘するが…

 

 地味な映画だが、コーンウォールの風俗をしっかり撮った心温まる話で、最後まで大変楽しく見ることができる。漁師たちの歌は大変良くて、合唱とか声楽の関係者にはものすごくおススメだ。レパートリーの半分くらいは漁ではなく商船の船乗りの歌なのはコーンウォールの文化的背景によるものなんだろうか?

 田舎町の魅力だけではなく、ポート・アイザックの人々の閉鎖的なところなど欠点もエグい感じで描いており、とくにジム(ジェームズ・ピュアフォイ)が最後にダニーと仲違いするところなどは、ちょっとびっくりするくらい頑迷でわがままだ。そしてこういう閉鎖性、Brexit前なら「まーコーンウォールの田舎のおっちゃんたちだし、当然イングランドに対するナショナリズムがあるだろうから、独立心がありすぎて」くらいな気分で見られたのだが、Brexit以降だとけっこうひどいけどリアルだなと思ってしまうところもある。地域ナショナリズムというのはいいほうにも悪いほうにも働くものだ。

 一方で若い世代はちょっと開けているというのも面白い。合唱団のひとりで若い父親であるパブの経営者ローワンがジムじゃなく街から来たダニーに相談するあたり、たぶんローワンはジムに頼っても根本的な解決が難しいということは理解しているのだろうなーと思う。また、漁師たちが歌う歌は17世紀とか18世紀の俗謡で、荒っぽいしなかなかお色気満載であるためロンドンの音楽会社のお偉方の趣味にはあわないのだが、ロンドンのパブにいる非白人の若者たちには大ウケというのが面白かった。マルチカルチュラルなロンドンに、閉鎖的な田舎町の古い俗謡を受け入れる俎上があるのである。

 なお、この映画はキャストが微妙に豪華で、トロイ役のクラークは『ドクター・フー』のミッキーだし、『わたしは、ダニエル・ブレイク』のダニエルことデイヴ・ジョーンズが合唱団のおっちゃんの役で大変良い味を出している。