最初は笑えて、最後は悲しい諷刺劇~『ジョジョ・ラビット』(ネタバレあり)

 タイカ・ワイティティ監督の新作『ジョジョ・ラビット』を見てきた。

www.youtube.com

 舞台は第二次世界大戦末期のドイツの地方都市である。主人公のジョハネスことジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)はいじめられっ子で、母のロージー(スカーレット・ジョハンソン)と親友ヨーキー(アーチー・イェーツ)以外には空想の友達であるアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)が心の支えだった。しかしながらある日ジョジョは屋根裏で母がかくまっているユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)を見つけてしまい…

 

 空想上のヒトラー役をユダヤ系かつマオリ系であるタイカ・ワイティティが演じているというところがポイントで、チャップリンヒトラーそっくりの床屋を演じる『独裁者』とか、ユダヤ系であるメル・ブルックスヒトラーをおちょくりまくった『プロデューサーズ』などの影響を明らかに受けている作品である。冒頭からわざとアナクロニスティックにドイツ語版のビートルズなんかを流して第三帝国の人気ぶりとジョジョのような若者のナチスに対する熱狂を辛辣に描き出しており、最初っから爆笑しっぱなしだった…のだが、途中から大変に深刻な展開になり、むしろ大変悲しい映画になる。あまりネタバレしないようにぼかして言うが、ジョジョが靴の紐を結べないというところが大きなポイントで、靴がすごく重要な小道具になっている。この悲しいようで微笑ましいような奇妙な後味は、同じく第二次世界大戦を諷刺した作品である『まぼろしの市街戦』にちょっと似ている。

 

 終盤はやや展開が強引なところもあり、ジョジョがひとりで暮らしているのに誰も注意しないのかとか、同性愛者であるらしいキャプテンK(サム・ロックウェル)の心境についてはもっと深く描きこんでもいいのではないかとか、いくつかツッコミどころがあるのだが、諷刺的な寓話としてはすごく攻めているてよくできている作品だし、今みたいにヘイトが溢れている時代にこういう作品を作るのはすごく必要だと思う。ただ、考えないといけないのはこの手のナチス諷刺劇としてこれはどれくらいの完成度なのかな…ということだ。タイカ・ワイティティはすごくひねったユーモアのセンスを持っているクリエイターで私は大好きなのだが、意外ときちんと綺麗に落とす映画を作る人だと思う(『マイティ・ソー バトルロイヤル』とか、めちゃめちゃちゃんとした映画だと思うのだが)。『ジョジョ・ラビット』も最初は辛辣で破天荒だったのだが、最後は急に『ライフ・イズ・ビューティフル』みたいな悲しい感動系でまとめている。諷刺映画として見るのであれば、最後までメチャクチャであるがゆえに完成度が高かった『プロデューサーズ』とかのほうが凄いのかも、という気はする。とはいえ、『ジョジョ・ラビット』はこれはこれですごく面白くて素敵な映画ではある。