配役を含めて安定してきた印象~物狂い音楽劇『リヤ王』

 鮭スペアレによる物狂い音楽劇『リヤ王』を見てきた。鮭スペアレは坪内逍遙の台本を使って能の要素を取り入れながらシェイクスピアを上演する劇団なのだが、銕仙会能楽研修所で上演ということで、いつも上演に増して能っぽくなっていた。

 

 既に『ロミオとヂュリエット』『ハムレット』『マクベス』を上演しており、だいぶ安定してきた感じがする。白装束が基本で楽器の生演奏及び謡がつく。今回はキャストがなかなか面白く、リヤ王(葵)、エドガー(上埜すみれ)、エドマンド(清水いつ鹿)、コーディーリャ(宮川麻里子)など主要キャストはほぼ女優である一方、ゴナリル(田中孝史)とリーガン(若尾颯太)だけは男優で、どうもリヤ王の娘は上の2人と末娘は似てないらしいということを明確にしていた。最後にリヤ王が亡くなったコーディーリャと入ってくるところの演出がなかなか面白く、ふつうはリヤ王がコーディーリャをかついで入ってくるのだが、さすがに能の優雅な舞台ではそんなどたばたしたことはせず、コーディーリャが手で顔を隠した状態で、自分で歩いて入ってくることで象徴的に死を表現していた。これはいい発想だと思うし、能舞台という特殊な空間だとより効果を発揮する演出でもあると思った。能舞台でやるなら、思い切って死んでしまったら能面になるとかでも良いのでは…とも思った。

 

 ふつうにやると3時間以上かかる台本を95分にカットしているため、一応話はわかるようになっているが、ちょっとあれっと思うカットもある。エドガーがオズワルドと戦ってエドマンドの奸計を知る場面などがないし、コーディーリャとリヤ王の再会と2人が捕虜になる場面が混ぜてあるなど、原作を知らないとかなりわかりにくいであろうと思われるところもけっこうある。さすがに能舞台でやるだけあって暴力描写は控えめだ。あと、道化が出てくる場面がかなり短くなったため、正直あんまり機能がはっきりしなくなっているように思った。トムになった後のエドガーがわりと強烈で道化的な機能を果たしているので(1人だけ着るものの色などが違って際立っている)、道化との役の棲み分けがわかりにくくなっているように思う。