台本はすごくいいのだが、いかんせん原作が…『虹と雪、慟哭のカッコウ~SAPPORO’72』

 hitaruで『虹と雪、慟哭のカッコウ~SAPPORO’72』を見てきた。これは『カッコーの巣の上で』を札幌オリンピック開催前の札幌の精神病院に移した翻案である。

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 もとの作品に出てきているネイティヴアメリカンのチーフをアイヌ系の「ぬし」と呼ばれている男性にしたり、札幌オリンピックの時になくなったさむらい部落(不法占拠バラック街)出身の男性が出てくるなど、原作をかなりきちんと札幌の話に消化している。役者陣の演技もいいし、北海道方言をものすごくナチュラルに台本に取り込んでいるあたりはすごくいいと思う。正直、自分がしゃべっている言葉がこんだけ自然に舞台で話されているのを聞くのは感動した。左側にガラス窓のついてナースステーション、後ろに鉄格子というセットもいい。

 

 ただ、問題はそもそももともともの『カッコーの巣の上で』がすごく性差別的な作品だということだ。私はこの映画を高校生の時に見てそれ以来大変に嫌いだった…し、正直、今のコンテクストでふつうの翻案できる作品ではないと思うのだが、この翻案では原作にあった男子文化のイヤなところが温存されており、さらに余計悪くなっているようにすら見える。

 原作の問題点としては、主人公のマクマーフィはうっかり未成年の女性と性交渉をして刑務所に入ったということがあるのだが、本人が全くそれを後悔していないらしいこと(相手の年を知らなかったとはいえ、ちょっとは反省すべきなのでは?)、精神病院の「体制」を象徴するのが女性の看護師長で、男を家庭や病院に閉じ込める女が男の敵であるという描き方になっていること(婦長の後ろにあるはずの男性中心的な医学体制は全く疑問に付されない)、マクマーフィが自分の女友達に患者仲間の童貞喪失を手伝わせてはやし立てるというホモソーシャルの嫌なところを煮詰めたような展開があること、という3つが大きいと思う。このせいで原作はものすごくミソジニー的な作品に見える。

 しかしながらこの翻案では、ひとつめについては主人公のタケシが自分の財布を狙った女にはめられて収監されたことになっており、この話がすごく派手に明かされるので、たぶんもとの映画より余計性差別的になっている。ふたつめについては大失敗…というか、この翻案では婦長が満州で戦時中に兵士に性暴力を受け、足を悪くしたという設定が非常に強調されており、婦長に人間味を付与しようとした…ようなのだが逆効果で、性暴力サバイバーの女性が芝居のヒーローを虐待する悪役になるというしょうもない展開になってしまっていて、この人間味の付加が全然、うまく機能していない。三つ目については映画と同じような感じで、やはり嫌な感じの男子文化が前面に出てきている。

 さらに、入院患者のひとりであるハカセがどうも同性愛者で何か性的執着の悪化?のようなもので入院したらしいのだが、ハカセがやたらと他の患者を触ったりするのがお笑いネタみたいに描かれているのもちょっとどうかと思った。ちょっと同性愛者に対するステレオタイプを思わせるところがあるし、さらに性的衝動がおさえられないというのはたぶんハカセのすごく深刻な精神的問題なんだろうと思うので、ジョークみたいに描くのは問題あると思う。