技術的にはすごいが、好きかというと…『1917 命をかけた伝令』(ネタばれあり)

 サム・メンデス監督の新作『1917 命をかけた伝令』を見てきた。1917年、第一次世界大戦西部戦線を舞台に、若い英軍兵スコ(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)が翌朝の攻撃を控えたデヴォンシャー連隊へ、攻撃中止命令を運ぶ様子を描いた作品である。

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 ワンカットで撮っているという触れ込みではあるのだが、そうではない…というか、同じくメンデスの『スペクター』冒頭の死者の日のお祭りのトラッキングショットと同じで、複数のテイクをうまく編集でつないでワンテイクのように見せている。また、一か所スコが失神してブラックアウトしたまま時間が過ぎるところがあり、ここは全くワンカットらしくない編集になっている。やたら「全編ワンカット映像」みたいに宣伝するのはどうかと思う。

 そしてこのやたら長いテイクで撮っているように見せる撮影・編集技法は非常に緊張感がある…のだが、この技術的なすばらしさとは全く別の問題として、私は始まって10分くらいで映画館に見に来たことを後悔した。というのも、最初はえんえんと狭い塹壕を手持ちで撮っており(あれ、ステディカムでもないのでは?)、手ブレがすごくて、手持ち酔いする私はけっこう吐きそうになった。映画館で酔うタイプの人には全くおすすめできない。中盤くらいからはけっこう手ブレがおさまってマシになるので、そのへんまでは我慢が必要だ。

 行く先々でいろんな人と会ったり、ショッキングな展開があったり…ということで、映画としては面白く、飽きさせない展開なのだが、正直、私はこういう映画はあまり好きではない。完全に好みの問題なので、こういう映画を高く評価する人がいるのはわかるのだが、私向きの紅茶ではなかった。まず、スコとブレイク、あと途中で出てくるスミス(マーク・ストロング)以外のキャラクターはかなり薄っぺらい…というか、飲んだくれのレスリー(アンドルー・スコット)や傲岸なマッケンジー(ベネディクト・カンバーバッチ)はけっこうステレオタイプだし、あと途中でスコが助けてもらうフランス人の女性はなんかそこだけ夢みたいにリアリティがなかったと思う。私はこの手の戦争映画に出てくる、見ず知らずの兵士を助けてくれる優しい女性キャラみたいなのはだいたい眉唾だと思っているのだが、あの女性は本当にスコが見た幻覚ではと思うような感じだった。

 それから、スタイルに気を配りすぎて話が弱くなっているように思った。ちょっと「そこ、そういう判断するか?」「なんでそんなことも気づかないんだ?」「そこ都合よすぎない?」というような無理のある展開が多い。これは何人かの歴史家も指摘していることだが、実際の第一次世界大戦の戦場では起こりっこないような展開がけっこうあり、そこが話のリアリティを弱めている。全体として、何かをクリアすると次のステージに行くゲームみたいで、ちょっと作為的なものを感じる。

 あと、これは展開が第一次世界大戦らしくないという上の話と通じるのだが、登場人物のしゃべり方が現代風すぎる。かなりみんなFワードを使っていたのだが、聞いた話では第二次世界大戦時の米兵すら今みたいな頻度でFワード使ってなかったらしいし、第一次世界大戦中の英兵があの頻度でカジュアルにFワードを使うとは思えない。途中で"Bloody Hell!"が使われていたが、第一次世界大戦の英兵が使うならそれこそbloodyみたいな英国風の罵り言葉だろうと思う。あと、痛かった時とか敵軍に対してならともかく、いくら酔っぱらっているとか機嫌が悪いということがあっても、第一次世界大戦の英軍で上官が部下に命令するときにはFワードは使わないだろうと思う(少なくとも3回使っていた)。詩が大流行していた第一次世界大戦塹壕を描くなら、もうちょっと登場人物に古めかしくても気の利いた話し方をさせてもいいのではと思う。