現代版『ハックルベリー・フィンの冒険』~『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

 『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』を見てきた。

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 ダウン症であるザック(ザック・ゴッツァーゲン)は福祉の陥穽にはまってしまっており、入れる適切な療育施設がないため、ノースカロライナ州の方針で若いのに老人養護施設に入れられてクサっていた。ザックはプロレスラーであるソルトウォーター・レッドネック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)に憧れており、ソルトウォーターのプロレス教室に入るために施設を逃げ出す。そんなザックはひょんなことから、地元の漁師とトラブルを起こし、犯罪者となったタイラー(シャイア・ラブーフ)に会い、一緒に逃げることになる。やがて2人は親しくなり、そこへザックを探しに来たケア職員のエリナー(ダコタ・ジョンソン)が加わって…

 

 いかだに乗って2人のおたずね者がノースカロライナ州のアウターバンクスあたりを旅するという内容で、アメリカ文学の名作として名高い『ハックルベリー・フィンの冒険』のほぼ翻案みたいな作品である。さらにちょっと性格に難のある青年と障害のある青年が旅をするという点では『レインマン』や、またまた『真夜中のカーボーイ』などの影響も見受けられる。この作品でザックを演じているザック・ゴッツァーゲンは実際にダウン症をわずらっている役者さんで、たぶん自分の経験をふまえてディテールを詰めていると思われ、ステレオタイプな感じがなく、かつすごくリアルだ。地味な話なのだが古典をふまえた丁寧な作りで、タイラーもザックも大変生き生きした人物として描かれている。

 ただ、全体的に優しい物語にしようとしたせいで、ちょっと脚本に甘さもある。エリナーが旅に加わるところでは、あれだけザックを心配していて、さらに養護施設の職員でもあるエリナーがあんなにやすやすと引き下がるかな…と思うし、終盤ちょっと駆け足に思えるところもあった。とはいえ、ユーモアもあり、とても味わい深い作品だ。