ボディタッチの親密と不快~ウィーン国立歌劇場『薔薇の騎士』(配信)

 配信でウィーン国立歌劇場『薔薇の騎士』を見た。1994年にカルロス・クライバーが指揮をつとめたものである(たぶんDVDが出ているのと同じものではないかと思う)。一切字幕がないのでそこはちょっとつらい。この演目は以前に一度、ロンドンで見たことがある。

www.staatsoperlive.com

 セットや衣装は時代設定にあわせたもので、高さのある舞台を上手に使って上のほうまでわりと豪華に飾ってある。撮影方法は90年代なのでわりと素直な撮り方なのだが、たまにすごいクロースアップなどがあり、また第2幕で初対面のゾフィ(バーバラ・ボニー)とオクタヴィアン(アンネ・ソフィー・フォン・オッター)が二重唱をするところは画面を二分割にして双方の表情を見せるという変わった編集をしている。

 字幕がない上、オペラに詳しいわけでもないのでちょっとよくわからなかったところもあったのだが、音楽については軽妙で安定感があってとても良かった。また、とにかくオックス(クルト・モル)が性欲剥き出しで不愉快なエロオヤジだという印象を受けた。第1幕でオックスが元帥夫人(フェリシティ・ロット)を訪ねてくるところで、オックスはなんか棒みたいな菓子に食いつきながらマリアンデル(変装したオクタヴィアン)のスカートを自分の尻と椅子の間に挟んで離れられないようにして口説こうとする。ここがとにかくイヤらしいおじさんという感じで、フロイトじゃなくてもこの菓子は男根的シンボルに見えるなと思った。第3幕冒頭で、居酒屋にマリアンデルを連れ込む前にこっそり脇のベッドのきしみ具合をチェックするあたりも芸が細かい。

 ここもそうだが、全体的にわりとボディタッチに伴う親密感と不快感を強調した演出だ(新型コロナウイルス流行でソーシャルディスタンスが言われているからこういうところが気になるのかもしれないが)。第1幕冒頭では元帥夫人とオクタヴィアンが朝食で同じカップを使って飲み物を飲みながらイチャつくところがあり、この愛情に満ちた接触は、次のオックスが尻にスカートを挟む不愉快な接触と対比されている。第二幕でもオックスはゾフィをいきなり抱きしめようとしたり、本人の許可なしに腕や肩に触ったり、相当イヤな感じの触り方をしており、前の幕で小間使いだと思い込んだマリアンデルにもゾフィにも、同じようにセクハラっぽい触り方をする(召使いにも婚約者にも同じように失礼だという点では一貫性のある男なのかもしれない)。一方、オクタヴィアンとゾフィはなかなかお互いに対する距離が詰められないどぎまぎした関係で、双方の身体に接触する時も初々しい感じがする。ゾフィがどさくさまぎれに自分からしれっとオクタヴィアンの手に触り、オクタヴィアンが嬉しそうにするところとかはとても可愛らしい。

 

R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」 [DVD]

R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」 [DVD]