人間味あふれるプロダクション~グローブ座『ハムレット』(2018、配信)

 グローブ座『ハムレット』(2018)を配信で見た。エル・ホワイトとフェデリー・ホームズが演出で、ハムレット役はグローブ座芸術監督であるミシェル・テリーである。

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ジェンダーにこだわらないキャスティングで、ハムレット、ホレイシオ、ギルデンスターン、レアティーズは女優が演じており、オフィーリアは男優が演じている。ギルデンスターンを演じるナディア・ナダラジャは手話を使っている(既に何度もグローブに出ている女優だ)。どの役者もかなり役柄には合っており、違和感はない。

 ハムレットを演じるミシェル・テリーはそんなにスター性のある女優ではないのがかえって功を奏してバランスのいい上演になっている…というか、例えば女優が演じたハムレットとしてはマキシン・ピーク版とかもあるのだが、ピークみたいな役者が主役だと魅力的なデンマーク王子が目立つ感じのプロダクションになる。一方、このプロダクションはあんまりハムレットが1人で気張っているような印象がなく、全員が人間味と感情の深みのある奥行きある人物として提示され、しっかりコミュニケーションをとっている感じになっている。奇をてらったようなところはなく、いくつかの例外を除いて非常に正攻法だ。

 このプロダクションのハムレットは最初から大変に落ち込んでおり、独白で泣いたり、狂気のふりをする場面ではちょっと寂しそうにピエロの衣服を着て出てきたり、感情の豊かなハムレットである。オフィーリア役のシャブハム・サラフは大変繊細で愛らしく、とくに狂乱の場面ではあまり髪や服を乱したりせず、普通の黒いワンピースに色鮮やかな花を持って出てきて、静かに悲しい狂気を表現しているところがわざとらしくなくて良かった。ほとんどのプロダクションではわりと冷静なホレイシオ(キャトリン・アーロン)もこの上演ではかなり感情が豊かで、ハムレットとは極めて親しそうだし、最後のフェンシングの試合のところではものすごく不安そうになって涙顔でハムレットを止める。笑いのタネにされがちなポローニアス(リチャード・カッツ)もけっこう人間味のあるおじちゃまで、旅役者たちが到着してプリアモスの話をひとくさりやるところでは、最初は長すぎるとか言ってつまらなそうだったのが、最後はかなり心を動かされて役者に「もういいですから」などと言っている。また、ハムレットに付き合って雲の形について話すところは、ほとんどのプロダクションでは面白おかしく演出するのだが、このポローニアスは本気でイラついているように描かれており(ハムレットの嘲笑ぶりを見れば当たり前の感情の変化だと思う)、けっこう感情をあらわにするポローニアスだ。 

 また、この上演ではクローディアス(ジェイムズ・ガーノン)はわりと自分の地位を固めるため気を遣っている感じの君主で、良心の呵責も感じているように描かれている。尼寺の場の後でポローニアスがオフィーリアを慰めようとしたつもり…でけっこう無神経に振る舞ってしまい(ここで客席から笑いが起こる)、クローディアスがちょっとオフィーリアをフォローしようとして「高いところにある者の狂気は…」という台詞をオフィーリアに向かって言うのは、クローディアスの気遣いを示すなかなか面白い演出だと思った。自分の罪を告白しながらお祈りをするところでは観客に話しかけたりするのだが、本気で悩んでいるように見える。さらに最後、ハムレットに毒杯を飲まされるところではちょっと後ろ暗そうな顔で諦めて杯を受け入れている。

 こういう感じで全体に登場人物の感情を丁寧に表現するオーソドックスなプロダクションなのだが、一カ所大変珍しい演出がある。少なくとも配信で見た限りでは、劇中劇の場面が実際に舞台上で演じられず、観客である宮廷人たちの反応とお芝居の効果音らしい音だけで表現されるのである。劇中劇のところはこれでもかというくらい強調してやることも多いと思うので、こういうシンプルな表現は珍しいと思う。