夢と眠りの世界~エクサンプロヴァンス音楽祭、ブリテン『夏の夜の夢』(配信)

 エクサンプロヴァンス音楽祭で2005年に上演されたベンジャミン・ブリテン『夏の夜の夢』を見た。ロバート・カーセンが演出、大野和士が指揮である。1991-1992年の演出で好評だったプロダクションを再演したものだそうだ。感染症がおさまれば大野和士が芸術監督の新国立劇場で10月にブリテン夏夢が見られる予定なので、予習にもなる。

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 とにかく眠りがコンセプトの美術が大変魅力的で、夢がキーワードとなるオペラの調子に大変よくあっている。第1幕は舞台が巨大な緑っぽいベッドで、片方の端にやはり巨大で超もっふりとした白い枕があるというものだ。わりとシェイクスピアのテクストを使っているのだが最初を大幅にカットしており、途中のパックが初登場するところから始まるので、まるで芝居全体が妖精が作り上げた夢のような印象を与える始まり方になっている。この枕がえらい魅力的で、登場人物が枕を触りながら快いメロディを歌ったりするので、正直気持ちがよくてこちらも眠ってしまいそうになる(寝なかったのだが、あの眠りに誘うような雰囲気はたぶん意図的なものだと思う)。第2幕はさっきの巨大ベッドを小さくしたような緑のベッドがたくさん舞台にあるというもので、アマチュア役者たちがベッドの上に腰掛けて稽古をしたりする。これは夢にもいろんな夢があり、みんな違う夢を見ることを暗示しているのかもしれない。第3幕ではなんと3つのベッド(ティターニアを含む恋人たちが眠っている)が宙に浮いた状態から始まる。オーベロン(ローレンス・ザッツォ)がティターニア(サンドリーヌ・ピオー)のベッドを下ろすくだりなど、本当に魔法みたいだ。朝になるとベッドが撤去される…のだが、これまでの夢の盛り上げ方が非常にちゃんとしているので、このベッドの撤去はまるで夢が覚めてしまうようでちょっと寂しいというか、もう今までの夢の世界も終わりかーと名残惜しい気持ちになる。

 衣装についてもかなり凝っている。白を基調にした人間の恋人たちの衣類と、緑が基調のオーベロン、青が基調のティターニアといった衣装の色の対比が綺麗だ。森で走り回るうちに恋人たちの衣類がどんどん草で汚れて緑っぽくなり、恋人たちが森の魔法に取り込まれていっている様子が視覚的にもわかるようになっている。また、職人たちのほうでも、仕立屋のスターヴリング(サイモン・バテリス)がリハーサルの時からやる気満々で寸法をはかって舞台衣装の一部とおぼしきものを縫っていたりするなど、芸が細かい。

 

 音楽は全体に大変ユーモアのあるもので、とくに職人たちのアマチュア芝居のくだりはたぶん台詞がわからなくても音楽だけで笑える。塀の調子っぱずれな歌は効くだけで吹き出してしまうようなものだし、シスビーの意図的に音痴に書かれた歌もおかしい。一方でオーベロンはカウンターテナーが担当しており、私が想像する妖精の王としては軽妙な感じで、このあたりはブリテンのイメージが生かされているのだろうなと思った。